【獣医師監修】犬の膿皮症の原因は?よくある症状や治療法・予防についても

犬の膿皮症は、皮膚のブドウ球菌が異常に増殖することで引き起こされる皮膚病です。免疫力が低下していたり、皮膚のバリア機能が弱まっていたりすると発症しやすくなります。
本記事では、犬の膿皮症の原因や治療法、予防策について詳しく解説します。愛犬の皮膚トラブルを防ぐために、日々のスキンケアや生活環境の見直しを行い、症状が現れた場合は早めに獣医師に相談しましょう。
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犬の膿皮症でよくある症状
犬の膿皮症は、皮膚の常在細菌の過剰増殖によって発症する皮膚病で、主にブドウ球菌が過剰に増殖することが原因です。「表面性膿皮症」「表在性膿皮症」「深在性膿皮症」の3種類があり、感染の深さ(病変の部位)によって分類されます。
犬に多く見られるのは「表在性膿皮症」で、皮膚の炎症やかゆみ、発疹、脱毛などの症状が現れます。
「表面性膿皮症」は皮膚の角質層に限局する軽度の感染で、赤みや軽度のかゆみが特徴です。赤い発疹やかゆみ、脱毛、フケ、かさぶたが見られることがあります。
一方、「表在性膿皮症」では皮膚より深く、毛包の上部に炎症が起こり、赤い発疹やかゆみ、脱毛、フケ、かさぶたが見られるのが特徴です。
「深在性膿皮症」の場合は、感染が毛包よりも深部に広がり、膿を伴ったしこりや皮膚の腫れ、潰瘍が発生することもあります。この場合、かゆみよりも痛みが強く、犬が元気をなくしたり、食欲が低下したりすることがあります。
犬の膿皮症の原因
犬の表在性膿皮症は、その殆どが皮膚に存在する常在菌であるブドウ球菌が異常に増殖することで発症します。一方、深在性膿皮症ではブドウ球菌に加えて、大腸菌、緑膿菌、プロテウス属菌など、さまざまな細菌が関与していることがあります。
これらの細菌は通常、健康な犬の皮膚に存在していても問題を起こしません。しかし、免疫力の低下や皮膚バリア機能の破綻、生活環境の悪化などの要因によって、異常繁殖し膿皮症を引き起こします。
犬の免疫力低下や皮膚バリア機能の破綻などの原因として、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、脂漏症、糖尿病、腫瘍、クッシング症候群、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)などの基礎疾患が挙げられます。
これらの病気を抱える犬は、皮膚の防御機能が弱まりやすいため、膿皮症を繰り返すことが多いです。また、ニキビダニ症のような寄生虫による皮膚疾患が引き金となり、膿皮症を発症するケースもあります。
生活環境の影響も大きく、不衛生な環境や高温多湿の環境では細菌が繁殖しやすくなります。特に、シャンプー後に被毛が完全に乾かないまま放置されると、湿った皮膚が細菌の増殖を促し、膿皮症を引き起こすリスクが高まります。複数の要因が重なることで、犬の皮膚が細菌感染を起こしやすい状態になり、膿皮症へと発展することがあります。
犬の膿皮症の治療法
犬の膿皮症は、適切な治療を行うことで改善が期待できる皮膚病です。治療の基本は、細菌の増殖を抑え、皮膚のバリア機能を回復させることにあります。治療法には、大きく分けて「内服薬」「外用薬」「シャンプー療法」の3つがあります。
犬の膿皮症の治療法について詳しく見ていきましょう。
適切な検査
犬の膿皮症を適切に治療するためには、まず正確な診断を行うことが重要です。膿皮症は単なる細菌感染にとどまらず、基礎疾患や免疫の異常が関係している場合もあるため、症状の原因を明確にすることが治療の第一歩です。
症状の程度や再発の有無を確認しながら、最適な治療方針を決定するために、いくつかの検査を組み合わせて実施します。
犬の皮膚の状態を詳しく調べるために、一般身体検査では皮膚の視診や触診を行い、病変の範囲や特徴を確認します。さらに、皮膚の状態を詳細に分析するために、スタンプ検査や皮膚掻爬検査、被毛検査、ウッド灯検査などを行います。
皮膚病変の原因が細菌感染なのか、真菌(カビ)や寄生虫によるものなのかを見極めます。
治療の経過が思わしくない場合や再発を繰り返す場合には、細菌培養検査や薬剤感受性試験を実施し、感染を引き起こしている細菌の種類や有効な抗生物質を特定します。さらに、基礎疾患が疑われる場合には、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、アレルギー検査、ホルモン検査、病理検査などで、全身的な健康状態を把握することも必要です。
内服薬による治療
むやみな服用は薬剤耐性菌を生むことになるので推奨されていませんが、感染が広範囲に及んでいる場合や、皮膚の深部まで炎症が進行している場合には、抗生物質を使用して全身的に細菌の増殖を抑える必要があります。
膿皮症を引き起こすブドウ球菌は犬の皮膚に常在しているため、完全に排除することはできません。そのため、症状が改善したように見えても、処方された内服薬は獣医師の指示どおりに一定期間続けることが大切です。犬猫の感染症に関する国際団体であるISCAIDのガイドラインでは、表在性膿皮症の治療期間の目安は3~4週間とされ、症状が認められなくなった後も1週間は投薬を継続することが推奨されています。深在性膿皮症の場合は、6~8週間以上とされ、症状が認められなくなっても2週間は投薬を継続することが推奨されています。
途中で薬を自己判断で中止すると、細菌が再び増殖し、膿皮症が再発するリスクが高まるため、必ず獣医師の指示に従うことが重要です。
また、膿皮症を引き起こしている原因が糖尿病やホルモン異常などの基礎疾患である場合には、膿皮症の治療と並行して、基礎疾患の管理や治療も行う必要があります。膿皮症が繰り返し発生する場合は、免疫機能の低下や皮膚バリアの異常が関係している可能性もあるため、継続的な健康管理が必要です。
外用薬による治療
スプレーや塗り薬を患部に直接塗布することで、細菌の増殖を抑え、炎症を鎮める効果が期待できます。症状が比較的軽度な場合や、限られた部位にのみ症状が現れている場合には、内服薬を併用せずに外用薬のみで治療を進めることが推奨されます。
外用薬を使用する際は、可能であれば使用前に皮膚を清潔にすることで改善を早めることが出来ることがあります。皮膚の状態に応じた対応が必要ですので獣医師の判断を仰ぎましょう。また、犬が薬を舐めてしまわないよう、塗布後はエリザベスカラーなどを使用します。
シャンプー療法
シャンプー療法は、細菌の増殖を抑え、皮膚の清潔を保つことで、症状の改善を促進します。症状に応じて週に1〜2回、全身または患部を洗浄しましょう。ただし、過度な頻度のシャンプーは皮膚のバリア機能を低下させてしまうリスクもあるため、獣医師と相談しながら実施しましょう。
シャンプー療法を行う際には、しっかりと泡立てたシャンプーを皮膚に優しく馴染ませ、数分間放置してから洗い流すことで、有効成分を十分に浸透させることができます。ゴシゴシと強くこすらず、優しくマッサージするように洗いましょう。
また、シャンプー後の保湿ケアも重要です。薬用シャンプーは皮膚の脂分を落とすため、使用後に皮膚が乾燥しやすくなります。保湿剤を併用することで、皮膚バリアを保護し、症状の悪化を防ぐことができます。
犬の膿皮症の治療費
犬の膿皮症の治療費は、症状の程度や通院回数、治療内容によって異なりますが、12,000円〜20,000円ほどが目安です。治療には、内服薬や外用薬の使用に加えて、薬用シャンプーや保湿剤などによるケアが必要となることがあるため、診察料や検査費用と合わせると、それなりの費用がかかることがあります。また、薬への反応が悪い場合に、有効な薬を検討する目的で薬剤感受性試験を実施する場合があるため、症状の経過によっては追加で費用がかかる場合があります。
初診では、皮膚の状態を確認するために細菌培養検査や皮膚掻爬検査などを行い、治療方針を決定します。症状の経過を見ながら内服薬や外用薬を継続することが多く、通院回数が増えるほど費用も高くなります。
また、膿皮症が慢性化している場合や、他の皮膚病を併発している場合には、より専門的な治療が必要なため、治療期間が長引くことで費用が増えることもあります。症状が軽いうちに適切な治療を受けることで、治療期間を短縮し、結果的に費用を抑えることができます。
犬の膿皮症の予防
膿皮症を予防するためには、犬の皮膚の健康を維持し、細菌の繁殖を防ぐことが重要です。日々のケアや生活環境の見直しによって、膿皮症のリスクを大幅に減らすことができます。犬の膿皮症の予防について詳しく見ていきましょう。
食事を見直す
犬の皮膚の健康を保つために、良質なたんぱく質を原材料とするフードを選び、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸などの必須脂肪酸、ビタミンEやビタミンCなどの抗酸化成分を含む栄養バランスの良い食事を与えましょう。
皮膚のバリア機能を強化し、膿皮症の予防につなげることができます。
皮膚の健康維持を目的としたサプリメントの活用も1つの方法ですが、すべての犬に適しているわけではないため、使用前に獣医師への相談が必要です。
特に、食物アレルギーを持っている犬や、すでに皮膚トラブルを抱えている犬には、特定の成分が刺激となる可能性があるため、自己判断での使用は避けた方が良いでしょう。
温度・湿度を管理する
膿皮症は、高温多湿な環境で発症しやすいため、室内の温度や湿度を適切に管理することが重要です。特に梅雨の時期や夏場は細菌が繁殖しやすく、皮膚のバリア機能が低下することで感染のリスクが高まります。エアコンや除湿機を活用し、湿度を50〜60%程度に保つことで、皮膚の健康を維持しやすくなります。
また、犬が寝るスペースの通気性を良くすることも大切です。湿気がこもると細菌やカビが増殖しやすくなるため、ベッドや毛布はこまめに洗濯し、しっかり乾燥させましょう。さらに、定期的な換気を行い、新鮮な空気を取り入れることで、快適な環境を整えることができます。
皮膚を清潔に保つ
膿皮症の予防には、犬の皮膚を常に清潔に保つことが欠かせません。必要に応じて適切な頻度でシャンプーを行い、余分な皮脂や汚れを落とすことで、細菌の繁殖を抑制できます。ただし、シャンプーのしすぎは皮膚を乾燥させ、かえってバリア機能を低下させるため、獣医師と相談しながら適切な間隔で行うことが大切です。
一般的には、3~4週間に1回のペースが推奨されますが、犬の皮膚の状態によって調整が必要です。
犬の膿皮症についてよくある質問
膿皮症は犬にとって比較的よく見られる皮膚病の1つであり、飼い主からの質問も多い疾患です。ここでは、膿皮症についての代表的な疑問に回答します。
繰り返し発症しやすい?
膿皮症は、一度治療を行えば完治する場合もありますが、再発を繰り返してしまうケースも少なくありません。特に、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなど、皮膚のバリア機能が低下する基礎疾患を持っている犬は、細菌が繁殖しやすく、膿皮症を何度も発症する可能性があります。
再発を防ぐためには、単に症状を抑えるだけでなく、原因となる皮膚のトラブルを根本から改善することが重要です。食事の見直しや環境管理、定期的なスキンケアを徹底することで、細菌の異常増殖を抑え、膿皮症を予防できることがあります。
必要に応じて動物病院で相談し、関節をサポートするサプリメントを取り入れるのも方法の1つです。
かかりやすい犬種はある?
膿皮症はすべての犬に発症する可能性がありますが、特に以下の犬種はかかりやすいとされています。
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柴犬
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シー・ズー
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ゴールデン・レトリーバー/ラブラドール・レトリーバー
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フレンチ・ブルドッグ
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ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア
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ミニチュア・ダックスフンド
定期的なシャンプーやスキンケアを行い、皮膚の健康を維持することが大切です。どの犬種でも発症する可能性があるため、皮膚に異常が見られた場合は早めに獣医師に相談しましょう。
まとめ 犬の膿皮症は予防も重要
犬の膿皮症は、細菌の異常増殖が原因で発症し、皮膚の赤みや発疹、かゆみ、脱毛などの症状を引き起こします。特に、免疫力が低下している犬や皮膚のバリア機能が弱い犬は発症しやすく、治療後も再発を繰り返すことが少なくありません。
治療法には、内服薬や外用薬、薬用シャンプーを使用したスキンケアなどがあります。症状の程度や犬の体質に応じて、適切な治療を継続することが重要です。また、食事の見直しや生活環境の改善によって、膿皮症の予防にも努めましょう。
膿皮症のような症状が見られた場合は、早めに動物病院を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。愛犬の皮膚の健康を守るために、日常的なケアを徹底し、予防に努めましょう。
- 監修者プロフィール
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岩谷 直(イワタニ ナオ)
経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許