【獣医師監修】猫の毛が抜けるのは皮膚病が原因?よくある病気や治療について

2025.09.09
【獣医師監修】猫の毛が抜けるのは皮膚病が原因?よくある病気や治療について

愛猫の抜け毛が決まって増える時期は、春と秋の年2回です。猫にとって、春から夏へ、また秋から冬へという季節の変わり目は、冬毛から夏毛、夏毛から冬毛へと、次の季節に適した質の被毛に生え替わる「換毛期」だからです。このような、健康を維持するための生理現象として起こる抜け毛は、全く心配する必要がありません。


しかし、何らかの問題が原因で生じる抜け毛は、その裏に皮膚病が潜んでいる可能性が否定できません。猫に抜け毛の症状を引き起こす代表的な皮膚病と、その原因や診断、治療、そして予防法などを解説します。

目次

 

猫の毛が抜けるのは皮膚病が原因?

 

猫の毛(被毛)は、皮膚の下にある毛包から生じ、成長し続ける成長期、徐々に退化する退行期、退行した状態で止まる休止期というサイクル(毛周期)で変化していきます。そして同じ毛包の中に新しい毛が生じると、休止期だった毛が抜け落ちて、新しい毛の成長が始まります。この時に抜け落ちる毛が抜け毛です。


個々の毛が独立した毛周期で変化するため、健康な時には全身の毛の本数はほぼ一定に保たれます。春と秋といった季節の変わり目に起こる「換毛期」は生理現象ですので、抜け毛の量が増えるものの、それが理由でハゲてしまうことはありません。


換毛期の他にも、猫の抜け毛が増える原因にはストレスなどの行動学的な要因で過剰にグルーミングをすることによるものや、偏った栄養バランスによる必須脂肪酸やタンパク質、亜鉛などの不足、加齢などさまざまな原因があります。しかし、換毛期でもないのに抜け毛の量が増えてきたと感じた場合は、注意しましょう。猫の皮膚病の代表的な症状の一つに脱毛があるため、皮膚病が原因で脱毛が起きる兆候かもしれないためです。

 

猫の毛が抜ける場合に考えられる皮膚病 
 

愛猫の抜け毛が増えたなと感じた場合、愛猫の被毛や皮膚の状態、いつもと変わった行動を見せるかといったことに注意を向け、皮膚病が疑われる場合は速やかに動物病院で受診するようにしましょう。


猫の抜け毛が増える場合に考えられる皮膚病には、大きく3つの原因が考えられます。


  • アレルギーやアトピー性皮膚炎

  • 皮膚感染症によるもの

  • 外部寄生虫によるもの


では次章より、原因別の猫に代表的な脱毛が見られる皮膚病を解説していきます。

アレルギーやアトピー性皮膚炎

アレルギーとは、普段生活している環境の中にあるさまざまな物質に対して、動物が自分の身を守るために持っている免疫機構が過剰に反応し、自分自身の体(組織)を異物と間違えて攻撃してしまう反応のことです。アレルギー反応を起こす原因物質のことをアレルゲンと言い、何がアレルゲンとなるかは個体によって異なります。


猫の皮膚に問題を起こすアレルギー性の病気には、「食物アレルギー」「ノミアレルギー性皮膚炎」「アトピー性皮膚炎」があります。食物アレルギーと聞くと、消化器症状が引き起こされると考えがちですが、皮膚炎が発症する場合もあるため注意が必要です。


食物アレルギーは、肉や小麦、保存料などのフードや食事中に含まれている特定の食材が、ノミアレルギー性皮膚炎はノミの唾液が、アトピー性皮膚炎は空気中に浮遊しているハウスダストや花粉などのさまざまな物質がアレルゲンとなります。


いずれの場合も症状として強いかゆみを生じることが多く、猫が患部を足で掻いたり舐めたりすることでその部分の毛が抜けて脱毛します。

皮膚感染症によるもの

皮膚の表面や毛包の中には、日頃から多種多様な微生物が棲息していて、常在微生物と言われています。常在微生物は、宿主となる猫が健康で環境的にも問題がない時には、何も問題を起こしません。


しかし免疫力の低下、皮膚バリア機能の低下、アレルギー性皮膚炎などの発症や環境の悪化などを引き金に、異常に増殖してしまうことがあります。そうなると、皮膚病を起こしてしまいます。


常在微生物の感染が原因で猫に脱毛の症状を引き起こす皮膚病には、「膿皮症」や「皮膚糸状菌症」があります。


膿皮症は、ブドウ球菌などの常在細菌の異常増殖が原因で起きる皮膚病です。犬と比べて猫に多い病気ではありませんが、発症の可能性がゼロとは言えません。かゆみが生じるため、しきりに患部を舐めたり掻いたりする様子が目立つようになります。初期は、皮膚や毛穴に膿が溜まった小さなぶつぶつができます。それが破れると、皮膚がめくれたり脱毛したりといった症状に進んでいきます。


皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌という真菌(カビの仲間)に感染することで起きる皮膚病で、猫から人にも感染します。猫によく見られる症状は、毛が切れて切り株状に脱毛する、フケが増えるなどですが、ペルシャ猫などの長毛種は毛穴に沿ってぶつぶつができることもあります。また、感染した猫は無症状でも、保菌者となって人に感染させることもあるため、十分な注意が必要です。

外部寄生虫によるもの

寄生虫が原因で発症する皮膚病もあります。猫が寄生虫により発症する脱毛を伴う主な皮膚病は、「ノミ刺症」や「疥癬症」などです。


ノミ刺症とは、ノミが吸血するために猫の皮膚を刺すことで生じる皮膚病で、粟粒大の発疹が現れることがあります。ノミは猫の体表を移動するため、後頭部、首、腰、後肢など広範囲に症状が現れることがありますが、背中~尾の付け根の分布がより顕著とされています。ノミの唾液にアレルギー反応を起こすとノミアレルギー性皮膚炎となり、さらに強いかゆみが生じます。


疥癬症は、ヒゼンダニの寄生により発症する皮膚病で、重度のかゆみがあるため、猫は患部を引っ掻き回して傷だらけになり、毛も抜けて脱毛することが多いです。またヒゼンダニはノミとは異なり皮膚の中に寄生するため、目視することはできません。発症部位は全身にわたりますが、特に耳の端、腹部、肘、膝などによく現れます。また、疥癬症も、人にうつる皮膚病です。

 

猫の抜け毛は動物病院を受診すべきか

 

猫の抜け毛は動物病院を受診すべきか

 

愛猫の抜け毛が増えてきたと感じた場合、できるだけ早く動物病院で受診するかどうかを見極めることが大切です。様子を見ている内に症状がどんどん悪化していき、猫にかかる負担が大きくなったり、治るまでに時間がかかったりすることがあるためです。


特にかゆみは掻けば掻くほど強くなるため、痛みを生じたり出血したりするほど掻いてしまい、病状を悪化させてしまうことが多いです。


換毛期のように、全身の毛が同じように抜けていて、極端に脱毛している部分があるわけではなく、皮膚に赤みや発疹も見られないような場合は、様子を見ても構いません。


しかし、毛が切れて薄くなっていたり脱毛している部分がある、食事や遊びの最中にもかゆがってしきりに舐めたり掻いたりしている、皮膚に赤みや発疹や出血が見られる場合は、できるだけ早く受診することをおすすめします。


また受診する際には、獣医師に病気の経緯(発症時期、症状の経過、フードや環境の変化の有無等)を説明できるように準備しておくことも大切です。

 

猫の皮膚病の診断方法

 

皮膚病を診察する際には、まず「問診」から始めます。猫が直接説明することはできませんので、飼い主さんが発症時期、症状や経過、普段の環境や食事内容などを詳しく説明する必要があります。次に、獣医師が皮膚症状を評価します。皮膚や被毛の症状や進行具合、発症部位、猫の様子からかゆみの強さなどを目視で評価します。


抜け毛の症状は、甲状腺機能亢進症や糖尿病、副腎皮質機能亢進症などのホルモンバランスを崩す内分泌系の病気などが原因となることもあるため、続けて皮膚以外の一般状態(活動性、体温、心拍数、体重など)も確認していきます。


ここまでの結果を元に、必要な検査を実施します。皮膚に関する主な検査法を列挙すると、下記になります。


  • 皮膚掻爬(そうは)物直接鏡検(外部寄生虫、皮膚糸状菌の検出)

  • 毛検査(毛の構造と毛周期の評価、皮膚糸状菌とニキビダニの検出)

  • 細胞診(ブドウ球菌などの細菌や真菌の増殖、表皮角化細胞の変化等の確認)

  • 細菌検査(採取した細菌の培養による種類の同定)

  • 真菌検査(皮膚糸状菌の感染が証明された場合に菌種や感染源を同定)

  • アレルギー検査(アレルギーのタイプやアレルゲンの検査)


最終的に皮膚以外の病気が疑われる場合には、血液検査、尿検査、ホルモン検査、X線や超音波などの画像検査などが行われる場合もあります。

 

猫の皮膚病の治療法

 

猫の皮膚病の治療法

 

皮膚病の種類によっては、根治することが難しく生涯を通して通院しながら症状をコントロールしていく必要があるものもあれば、根気良く治療をすることで根治を目指せるものもあります。猫の皮膚病の治療法としては、下記の3つに分類されます。そのそれぞれについて概要を紹介します。


  • 薬物療法

  • シャンプー療法

  • 食事療法

薬物療法

猫の皮膚病によく用いられる治療法の一つが、薬物療法です。内服薬または外用薬を用いて、細菌の増殖や炎症、かゆみを抑えることで症状の改善を図ります。


猫の皮膚病の治療薬として使われる薬の種類には、下記のようなものがあります。


  • 抗生物質(細菌やカビなどが産生した抗菌性の物質)

  • 抗ヒスタミン剤(皮膚の炎症やかゆみを起こすヒスタミンの機能を抑える薬剤。副作用は軽度ですが即効性はなく効果も限定的なことがあります)

  • ステロイド(皮膚の炎症やかゆみを緩和します。即効性があるが長期的に高用量を服用することで副作用がみられることがあります。)

  • 免疫抑制剤(ステロイドの代替えや併用療法として用いられることの多い薬剤)


皮膚病の種類や症状に合わせて適切な薬剤を選択することが大切です。猫の性質にもよりますが、外用薬を用いる局所療法の方が全身に対する影響が抑えられます。必要に応じて複数の薬剤を並行して適用することもあります。さらに、症状が改善したように見えても飼い主さんの判断で勝手に中断せず、必ず獣医師の指示に従うことが大切です。特に膿皮症などの細菌感染症の場合は処方された抗生物質や抗菌剤は途中で勝手に投与をやめないようにしましょう。

シャンプー療法

猫の場合、ヘアレスキャットや長毛種などの一部の猫種を除き、日常的にはシャンプーの必要がありません。しかし、皮膚病の原因によってはシャンプーが必要になるケースがあり、治療の一環としてシャンプー療法を行うことがあります。


皮膚病は、皮膚の表面や毛包の中などに寄生した寄生虫や異常増殖した常在微生物、アレルゲンの付着などにより引き起こされます。またフケや掻きこわした患部から出た膿などで不衛生になり、さらに病状を悪化させる原因になります。


そこで、薬用シャンプーを用いたシャンプーで皮膚や被毛を清潔にし、治療を進めるのがシャンプー療法です。治療目的に応じた薬用シャンプーがあり、皮膚病の原因や状態によって頻度が異なることがあります。獣医師の指示に従い、動物病院スタッフの協力を得ながら、効果的に進めるようにしましょう。

 

食事療法

皮膚病の原因に栄養的な問題があったり、食物アレルギーが原因である場合に行われるのが、食事療法です。欠乏している栄養素を補給したり、アレルゲンとなる食材を除いたり、皮膚や被毛の健康を正常化するために必要な成分が加えられた食事(フード)を、治療の一環として与えます。


食事療法中はご家族全員で協力をし、愛猫が決められた療法食以外のものを口にしないよう、きちんと管理することも大切です。また、療法食を嫌って食べない場合もありますので、動物病院のスタッフに相談しながら、食べてもらうための工夫を行いましょう。

 

猫の皮膚病の予防方法

 

猫の皮膚病を予防するためには、感染源となる常在微生物が異常増殖する要素の排除、感染源となる寄生虫やアレルゲンとなる物質の排除、皮膚病が悪化する要素の排除、そして猫自身が皮膚病を引き起こしてしまう行動を誘発するストレスの排除などが大切です。そして、皮膚病は慢性化してしまうと治癒が難しくなるケースも多いため、早期発見・早期治療につなげることも忘れないようにしましょう。


具体的なポイントを下記に列挙しますので、参考にしてください。


  • 室内や猫が触れる布製品をこまめに掃除、洗濯すること

  • 室温26〜28℃、湿度50〜60%程度に維持して寄生虫や細菌等の増殖を防ぐ

  • 必要な期間中、寄生虫の予防対策を継続する

  • ストレスによる過剰グルーミングを招かないよう、ストレスフリーな環境を作る

  • 日々のこまめなブラッシングで、全身の皮膚や被毛の状態をチェックする


また、愛猫の皮膚や被毛の状態や行動に違和感を覚えた場合は、あまり時間をかけて様子を見るのではなく、できるだけ早めにかかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。

 

まとめ 猫の異常な抜け毛は皮膚病を疑おう

 

長毛種に限らず、短毛種の猫でも換毛期になると抜け毛の量が増えて、飼い主さんを悩ませます。しかし健康上に問題がない場合は、どんなに抜け毛が増えても体の一部の毛が少なくなったりハゲたりするようなことにはなりません。全身の被毛がそれぞれの毛周期に従って成長から抜け毛までの変化を繰り返すことで、全身の被毛の状態や本数が保たれるからです。


しかし、ちょっとしたことが原因で健康な状態が崩れてしまうと、病的な抜け毛が生じ、体の一部やあちらこちらにハゲた部位ができるようになります。多くの皮膚病はかゆみを伴うため、愛猫の生活の質も著しく悪化してしまうことでしょう。


飼い主さんの日頃からの配慮で皮膚病の発症を予防するとともに、万が一発症した場合も、早期発見・早期治療を心がけることで、愛猫の負担ができるだけ軽いうちに対処してあげられるようにしましょう。

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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