【獣医師監修】猫の元気がないのはなぜ?疑われる病気や病院に行くべきかについて

猫の元気がない時、「病院に行くべきか?」「何か特別なケアが必要なのか?」といった不安を感じる飼い主の方は多いでしょう。本記事では、猫の元気がない場合の症状や疑われる病気、原因、対処法、受診の判断基準などについて詳しく解説します。
- 目次
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猫の元気がない時に見られる症状・疑われる病気
・ご飯を食べない
・発熱・くしゃみ・鼻水
・下痢や嘔吐
・よだれを垂らしている
・同じ場所から動かない・寝てばかり -
猫の元気がない原因
・ストレスや気分
・病気やケガ
・気温や気圧の変化
・老化
・病院の帰宅後 -
猫の元気がない時に確認すべきポイント
・食欲はあるか
・排泄は普段通りか
・呼吸に異常がないか
・触ると痛がる素振りはないか -
猫の元気がない時に試してみること
・好きな食べ物をあげてみる
・お気に入りのおもちゃで遊びに誘う -
猫の元気がない時は病院を受診すべきか
・様子を見ても問題ないケース
・すぐにでも受診した方が良いケース - まとめ 猫の元気がない時は様子を見て動物病院へ
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猫の元気がない時に見られる症状・疑われる病気
猫の元気がない時に見られる症状・疑われる病気

猫が元気をなくすと、飼い主としては心配になります。このような場合、どのような症状が見られ、どのような病気が疑われるのかを理解しておくことが大切です。以下に、猫の元気がない時に見られる主な症状と、それに関連する可能性のある病気について解説します。
ご飯を食べない
急に食事をとらなくなったり、食べる量が極端に少なくなったりした場合は体調不良が疑われます。
病気の多くで症状として食欲低下が見られるため原因は様々ですが、感染症による高熱や慢性腎不全などの内科的な疾患による食欲の低下、難治性の口内炎やケンカによる外傷などの痛みによる食欲不振があります。病気以外でご飯を食べない原因としては、ストレスが原因の場合もあります。たとえば、引っ越しや旅行などの環境変化、大きな音や新しい動物との共同生活が始まることなどがストレスとなり、食欲が低下する場合があります。
食欲が全くない場合や、嘔吐、下痢、体重減少など食欲低下以外の症状が見られる場合は、病気の可能性が高いでしょう。また、水をよく飲む場合は慢性腎不全が原因の可能性があります。
発熱・くしゃみ・鼻水
発熱やくしゃみ、鼻水といった症状が見られる場合には、感染症が疑われます。
代表的なものとして猫ヘルペスウイルス感染症や猫カリシウイルス感染症があります。猫ヘルペスウイルスの症状は、目の充血や鼻水、くしゃみなどです。猫カリシウイルス感染症では、口の中に痛みを伴う潰瘍ができて、くしゃみや鼻水に加えて食欲不振が見られる場合もあります。これらのウイルス感染症は子猫や高齢の猫でよりみられる事が多いです。
発熱がみられる事があるその他の感染症としては、猫伝染性腹膜炎(FIP)や猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症、猫白血病ウイルス(FeLV)感染症などがあります。
下痢や嘔吐
猫の下痢や嘔吐の原因は、環境の変化などによるストレス、抗生物質などの副作用、毛球症、寄生虫などの感染症、消化器系の病気、泌尿器系の病気など様々な原因で起こります。
また、食事の急な変更や食べ過ぎも猫の下痢や嘔吐の原因の1つです。消化機能が追いつかないため消化不良が起こり、結果として下痢や嘔吐を引き起こすことがあります。
下痢や嘔吐を引き起こす寄生虫感染症には、猫回虫、猫鉤虫、瓜実条虫、コクシジウム症などが挙げられます。特に子猫や外に出ることがある猫の場合は、消化管内寄生虫の感染を疑うことも多いです。消化器系の病気の例としては、胃腸炎や異物誤食、食物アレルギーなど、泌尿器系の病気の例としては、慢性腎不全や尿道閉塞などがあります。他にも、中毒物質の摂取が原因で、急激に発症する急性腎不全(急性腎障害)なども下痢や嘔吐を引き起こすことがあります。
よだれを垂らしている
猫がよだれを継続的に垂らしている場合に最も原因として考えられるのは、口内炎で、歯周病による歯ぐきの炎症やウイルス感染による舌の潰瘍などが含まれます。
特に、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫カリシウイルスなどの感染は、免疫力が低下して歯肉炎や口内炎を発症しやすくなります。
また、脳神経異常や異物の誤食、中毒、唾液腺や食道、消化管の病気などでもよだれが出ることもあります。吐き気を伴う場合は速やかな処置が必要な病気の可能性もあるため、早めに病院を受診しましょう。
同じ場所から動かない・寝てばかり
猫が同じ場所から動かず、寝てばかりいる場合、何らかの痛みや不快感を抱えている可能性があります。痛みの原因としては、骨折や捻挫などの外傷、関節炎が考えられます。痛みだけではなく、外傷や関節炎などの障害が体の動きを制限することがあるため、歩き方にも異変が生じることがあります。
また、何らかの原因で視界不良の状態になっている場合も、安全のために同じ場所から動かなくなることがあります。猫は本来、痛みや体調不良を隠す習性があるため、じっとして動かない時は体調不良の可能性を疑い、数日以内に状況が変わらないようであれば早めに動物病院を受診しましょう。
猫の元気がない原因
猫が元気をなくす原因は多岐にわたります。病気やケガだけでなく、環境の変化やストレスなども影響を及ぼすことがあります。猫の元気がない時に考えられる主な原因について詳しく見ていきましょう。
ストレスや気分
猫は繊細な動物で、些細な環境の変化や日常の出来事がストレスとなり、元気がなくなることもあります。たとえば、引っ越し、新しいペットの導入、家具の配置換えなどです。
また、飼い主の生活リズムの変化や家族構成の変化も影響を及ぼすことがあります。猫が元気をなくした場合、最近の生活環境に変化がなかったかを確認し、ストレスの原因を特定することが重要です。
病気やケガ
猫が動きたがらない、特定の部位を触られるのを嫌がる場合、病気やケガの可能性があります。例としては、関節炎や骨折、内臓疾患などです。また、爪が伸びすぎていると、歩行時に痛みを感じ、着地に失敗したり不自然な動きをしたりすることがあります。
定期的な健康チェックや爪の手入れを行い、異常が見られた場合は早めに獣医師に相談しましょう。
気温や気圧の変化
人の気象病のように、猫でも急激な寒暖差や低気圧などの気温や気圧の変化の影響で体調を崩し、元気がなくなることがあります。特に季節の変わり目には注意が必要です。室内の温度管理を適切に行い、猫が快適に過ごせる環境を整えることが大切です。
老化
7歳以上のシニア期に入ると、猫は活動量が減り、寝ている時間が増える傾向があります。これは老化による自然な変化ですが、急激な行動の変化や他の症状が見られる場合は、病気の可能性も考えられます。特に関節炎の痛みなどによる運動量の減少は、老化によるものとして見過ごされやすいため、定期的な健康診断を受け、適切なケアを行いましょう。
病院の帰宅後
動物病院から帰宅後、猫が元気をなくしたり、少しイライラしたりすることがあります。これは、診察やワクチン接種の際に感じたストレスや注射の痛みなどが原因です。
猫にとって動物病院は、予防接種や採血などで「苦手な場所」となりやすく、多くの猫は帰宅後の活動量が減ります。
猫も人間と同じように、機嫌の良し悪しを体の動きや表情で表現します。例としては、耳を後ろに引いたり、瞳孔が拡がったり、尻尾を激しく振るなどの仕草です。こうしたサインに注意を払い、猫が不快や恐怖を感じている時は無理な接触を避けましょう。
猫の元気がない時に確認すべきポイント

猫の元気がない時には、いくつかのポイントをチェックすることで緊急性が高いかどうかを見分けられることがあります。ただし、安易に自己判断するのではなく、少しでも不安があれば獣医師に相談しましょう。
猫の元気がない時に確認すべきポイントは下記のとおりです。
食欲はあるか
普段と比べて食欲が低下している場合、体調不良のサインである可能性があります。食欲不振に加えて発熱や嘔吐など他の症状がある場合は迅速な処置が必要な状態の可能性もあるため、早めに病院を受診しましょう。
発熱や嘔吐などの症状がなくても、食事をとらない、水を飲まない状態が36時間続く、といったケースでは病院を受診することが重要です。多少は食べるものの食欲が低下している場合は、72時間以上続くようであれば受診しましょう。経過観察時間はあくまで目安ですので、不安な場合は早めに病院を受診しましょう。特に、水を飲まない場合は状態を悪化させる可能性があるため24時間を目安にしてもいいかもしれません。
排泄は普段通りか
排泄の状態も健康状態を知る重要な指標です。下痢や便秘、血尿、頻尿などの異常が見られる場合、消化器系や泌尿器系の疾患が疑われます。これらの症状が続く場合は、早めに動物病院で診察を受けることをおすすめします。
尿の色が赤い、または茶褐色の場合、膀胱炎などの可能性があり、尿路閉塞の原因となる可能性があるためすぐに病院を受診しましょう。ただし、尿や便の色などだけで原因は判別できません。普段と異なる排泄状況の場合、原因を特定するためにもまずは受診することが大切です。
呼吸に異常がないか
呼吸が速い、浅い、苦しそうにしている、口を開けて呼吸しているなどの異常が見られる場合、呼吸器や循環器に加え、迅速な対応が必要な異常がある可能性が考えられます。猫は犬のように口を開けて呼吸しないので、そのような状態になっていたらかなり呼吸が苦しい状態です。
唇や舌が青紫色になるチアノーゼ、さらには倒れてしまうといった症状が見られることもあります。原因を問わず、呼吸がうまくできていない状態の場合は直ちに獣医師に連絡し、指示を仰ぐことが必要です。
触ると痛がる素振りはないか
普段は触らせてくれる部位を触った際に嫌がる場合、痛みを感じている可能性があります。痛みの原因は骨格筋系の損傷や外傷、消化管や泌尿器等における異常など多岐にわたるため、それだけで原因は判断できません。まずは、獣医師の診察を受けることが大切です。
痛みのサインは主に以下が挙げられます。猫は痛みを隠す本能があるため、以下に関わらず「いつもと様子が違うな」ということがあれば、注意深く観察しましょう。
また、だんだんと様子が違ってくると気づきづらいものです。「1年前と比べてどうかな」という視点でも、観察してみるとよいでしょう。
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気性が荒くなる・機嫌が悪くすぐ怒る
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体を触ると嫌がる・触らせてくれない
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おもちゃで遊ばなくなる・動かなくなる
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グルーミングが多くなる
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物陰に隠れたり逃げたりする
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食欲不振
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何かを要求しているわけでもないのに鳴く
痛がる部位を確認しようと体を触りたくなるかもしれませんが、余計なストレスを与えないためにも、むやみに触れずに病院を受診しましょう。
猫の元気がない時に試してみること
猫の元気がないと感じた時は、以下の方法を試してみることで、健常状態の判断がしやすくなることがあります。
好きな食べ物をあげてみる
いつも与えているご飯を食べないなど、元気がないと感じる時には、猫が特に好きな食べ物を与えてみましょう。猫が好きなものに興味を示すのであれば、迅速な対応が必要な状況ではない可能性があります。
ただし、普段から与えているものを食べない時点で、何らかのトラブルが起きている可能性はあります。そのため、好きな物を食べたとしても、食欲不振や元気がないなどの症状がある場合は状態の悪化が見られないか注意深く観察してあげましょう。
不安な場合は動物病院を受診するようにしてください。
お気に入りのおもちゃで遊びに誘う
猫のお気に入りのおもちゃで遊びに誘い、普段通りに興味を示すかどうかを確認することも、元気があるかをチェックする方法の1つです。一日のうちに数回誘っても遊びに反応せず、興味を示さない場合には体調不良の可能性があります。
また、家族構成の変化や引っ越しなどによる精神的なストレスが原因で、元気がなくなったり、遊ぶ気分ではなくなったりすることも珍しくありません。
猫の元気がない時は病院を受診すべきか

様子を見ても問題ないケース
環境の変化があった場合、猫は一時的に元気をなくすことがあります。引っ越しや家具の配置換え、家族の出入りなど、生活環境の変化によるストレスが原因であれば、他の症状が出てくることなく、数日以内に元の状態に戻ることが多いです。
また、動物病院での診察やワクチン接種後には、緊張や疲れが原因で一時的に元気がなくなることもありますが、通常は1~3日で回復します。さらに、猫は、人で気象病と言われる天候や気圧の変化による体調不良を起こす可能性が示唆されています。気圧が急激に変化した場合などは、体調を崩すことがあるかもしれません。ただし、多くは一時的なものであり、数日で改善する場合は過度に心配しすぎる必要はありません。
ただし、現段階で受診の必要はなくとも、次第に状態が悪くなっていく可能性はあります。そのため、しばらくは注意深く様子を観察してあげることが大切です。
すぐにでも受診した方が良いケース
猫の元気がない場合、病院を受診すべきか迷うこともあるかもしれませんが、症状によっては早急な対応が求められます。
たとえば「嘔吐」に関して、猫は毛玉や消化しきれないものを吐き出す習性があるため、頻繁に吐く動物と誤解されがちです。しかし、「1日に何度も吐く」「何日も続けて吐く」「水を飲んでも吐く」といったケースは病気の可能性が高いため、すぐに動物病院に相談することをおすすめします。
吐いた後に猫が元気で食欲もある場合は様子を見ることも可能ですが、吐いた後にぐったりしている場合は、早めに受診しましょう。
また、食欲不振も受診の判断材料となります。特に食欲不振に加えて発熱や嘔吐が24時間以上続く場合は動物病院を受診しましょう。
症状が食欲不振のみの場合でも、食事をとらない、水を飲まないなどの状態が36時間以上続いた場合は、病院を受診する必要があります。多少は食べているとしても、食欲不振が72時間以上続く場合は受診しましょう。
また、下痢も一過性のものと病気の兆候があるものを見極める必要があります。元気と食欲があり、下痢が一時的なものであれば、緊急性は低いと考えます。ただし、2日以上続く改善傾向のない下痢や、子猫や高齢猫の水様性便の場合は、病気の可能性が高いだけでなく脱水による悪影響も懸念されるため、すぐに動物病院で診察を受けましょう。
他にも、早急に動物病院を受診すべきケースは多々あるため、少しでも不安に感じたら、まずは獣医師に相談することが大切です。
まとめ 猫の元気がない時は様子を見て動物病院へ
猫の元気がない時はしっかりと様子を見て、緊急性があるかどうかを判断することが大切です。環境の変化や一時的な体調不良であれば、少し時間が経てば元気になることもあります。しかし、呼吸の異常や持続する食欲不振、排泄の異常など、明らかに普段とは異なる様子が見られた場合は、速やかに動物病院で診察を受けることが大切です。
早めの対応が猫の健康維持につながるため、安易に自己判断せず、適切に対応しましょう。
- 監修者プロフィール
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岩谷 直(イワタニ ナオ)
経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許