【獣医師監修】犬が血尿したらどうしよう?原因や疑われる病気、対処法などを解説

犬が血尿をしてしまうと、不安になりますよね。犬の血尿はさまざまな疾患が原因で起こります。場合によっては危険な状態となり、命に関わることもあるので注意が必要です。本記事では、血尿の原因や症状、治療法や予防法を解説します。犬の健康を守り、万が一の際にも迅速に行動できるよう、血尿に関して知識を深めておきましょう。
- 目次
犬の血尿とはどのような状態?
犬の血尿とは、尿に血液が混じっている状態です。泌尿器は、腎臓から尿管、膀胱、尿道までを指します。いずれかの部分における炎症、結石、腫瘍などが原因で血尿が出るリスクがあります。
血尿は、出血している部位や出血の程度によって尿の色調が変わるのが特徴です。たとえば、尿道口から離れた部位であるほど、赤黒い色調の尿が出る可能性があります。
犬の血尿の原因となる病気
膀胱炎
膀胱炎とは、膀胱の粘膜に炎症が起きる疾患です。発症すると、血尿や頻尿になったり、排尿困難になったりします。また、排尿時の痛みや残尿感が生じるケースがあるでしょう。軽度の膀胱炎の場合、頻尿などの症状が出ないまま、突発的に血尿が出ることもあります。
膀胱炎になる原因は、主に細菌感染です。健康体の犬の場合、定期的な排尿により尿道から侵入してくる細菌は洗い流されるため、膀胱内で細菌が確認されることはあまりありません。しかし、排尿がしっかりできていない時や免疫系に異常がある場合、尿道が不衛生な状態で細菌にさらされている場合などに、尿道口などから細菌が侵入し、膀胱内で増殖してしまうことがあります。細菌が増殖すると膀胱炎が起こり、膀胱粘膜が刺激されることで出血を引き起こしてしまうのです。雌の場合は尿道が短く太いため、雄に比べると尿路感染のリスクが高いと言われています。
細菌感染による膀胱炎を治療するためには、感染している細菌を特定し、有効な抗生物質の投与が必要となります。治療を放置すると、感染が腎臓まで達し、腹痛や発熱をともなう腎盂腎炎や急性腎不全(急性腎障害)を引き起こすリスクもあるため、早期治療が重要です。
尿路結石
尿路結石症とは、尿に含まれるマグネシウムやカルシウムなどのミネラル成分が結晶化することで形成された石が泌尿器に影響を及ぼす疾患です。腎臓や膀胱、で結石となり、炎症や排泄障害に伴う腎障害を引き起こします。日本では、ストルバイトとシュウ酸カルシウムをそれぞれ成分とした2種類の結石が発生の8割以上を占めるとされています。
尿路結石は、細菌感染や食事内容、遺伝的な要素、飲水量の不足などが原因で形成され、排尿時の痛みや頻尿、発熱、食欲不振、血尿などの症状を示します。
結石が尿管や尿道を詰まらせると、排尿できなくなることで急性の腎障害の原因となり、命に関わる可能性もあります。治療するためには、日常的な水分摂取量を増やす、結石の形成を抑制あるいは溶解を促進する「食事療法」や尿路結石の除去を目的とした「手術」、細菌感染がみられる場合は適切な抗生物質の使などが挙げられます。
膀胱腫瘍
膀胱腫瘍とは、膀胱内の粘膜から発生する腫瘍です。犬の膀胱腫瘍のうちの多くは、移行上皮癌(いこうじょうひがん)と呼ばれる悪性腫瘍です。
移行上皮癌は、膀胱粘膜の一部から生じる腫瘍であり、初期症状として血尿や頻尿などを引き起こします。症状だけで考えると、通常の膀胱炎と区別がつきにくいため、超音波検査による詳細な検査が必要です。
腫瘍の進行や腫瘍の発生部位により尿路が閉塞し、尿を排出できなくなることがあります。また、腫瘍が大きくなると膀胱内の容量が減少しますので頻尿がみられる事もあります。移行上皮癌は比較的転移をしやすく、転移した臓器に関連した症状がみられる事もあります(骨への転移による痛み等)。
膀胱腫瘍を治療するためには、腫瘍を摘出する外科療法が一つの手段です。また、抗がん剤などを使用した薬物療法も検討されます。あまり一般的ではないですが、緩和的治療として放射線治療を実施することもあります。
前立腺疾患(オスの場合)
オスの場合は、前立腺疾患になることで血尿の症状が出るケースがあります。前立腺疾患と呼ばれる病気は、おもに以下のようなものです。
疾患 |
概要 |
おもな症状 |
原因 |
治療法 |
前立腺肥大 |
オスの生殖器の疾患で最も多く、膀胱炎や腎臓炎尿毒症などが起こり、放置すると命に関わる。 |
尿が出にくくなる。他の疾患を併発し、嘔吐や下痢、血尿などの症状も起こる。 |
去勢をしないことで前立腺が肥大し、尿道が狭くなって排尿困難になる。 |
一般的には去勢手術を実施する。全身状態が悪化している場合や飼主が去勢手術を希望しない場合は薬物治療を実施する。 |
前立腺炎 |
前立腺に細菌が感染して炎症を起こす。感染が膀胱まで広がり、膀胱炎の症状が起こる。 |
尿の色が濁って血尿が出る、排尿時の痛みが起こるなど。重症化すると、食欲不振や嘔吐、発熱などの症状が見られる |
前立腺に細菌が感染することで生じる。 |
おもに抗菌剤を用いて治療する。慢性の前立腺炎の場合、一時的に治ったとしても、一定時間が経つと再発するケースがある。繁殖を目的としない個体の場合は去勢手術が最も有効である。 |
前立腺膿瘍 |
前立腺が細菌感染して化膿する疾患。 |
尿の色が濁る、血尿が出る、尿に膿が出るなど。頻尿や排尿困難になることもある。腹痛や発熱、食欲減退といった症状も見られる。 |
前立腺に細菌が感染することで生じる。前立腺肥大による前立腺嚢胞に続発することが多い。 |
抗菌剤による薬物療法や、物理的な感染巣の除去を目的とした手術による前立腺の摘出や穿刺吸引など。 |
膣炎や子宮蓄膿症(メスの場合)
メスの場合は、膣炎や子宮蓄膿症などが原因で血尿が起こることもあります。詳細は以下のとおりです。
疾患 |
概要 |
おもな症状 |
原因 |
治療法 |
膣炎 |
子宮から体外につながる膣に炎症が起きる状態。あらゆる犬種・年齢の犬で起こりうる。 |
外陰部から分泌物が出る。外陰部をしきりに舐めるようになる。 |
細菌、ウイルス、膣付近の先天的な異常や異物、外傷、腫瘍などが挙げられる。また、体の免疫状態やホルモンの影響なども関係していると考えられる。 |
異物や腫瘍、奇形などによって膣炎が起きている場合は、手術が必要なことがある。また、内科的治療として、抗生剤や外用薬を用いた治療が必要な場合もある。 |
子宮蓄膿症 |
子宮内膜と呼ばれる膜の異常と、細菌感染による炎症が起こり、子宮に膿がたまる。子宮の出口が開いているか閉じているかで「開放性」と「閉鎖性」に分かれる。 |
外陰部から膿が出る、多飲多尿や食欲不振の症状が出るなど。 外陰部をしきりに舐めるようになる。 |
プロゲステロンと呼ばれるホルモンが優位になる時期(黄体期)に子宮が細菌感染し、子宮蓄膿症につながる。とくに発情期が終わったあとの約2ヶ月間は注意して観察することが大切。 |
卵巣子宮摘出術が選択されるケースがある。全身状態が悪化している場合は、薬物による内科的治療を行うこともある。 |
犬の血尿とよく間違われる症状

犬の血尿は、別の症状と間違えられやすいケースがあります。おもに以下の2つが該当します。あらかじめ知識として知っておきましょう。
未避妊犬の外陰部からの出血
避妊手術を受けていない犬の場合、生後7ヶ月頃になると初回の発情期を迎え、陰部から出血が起こる場合があります。
犬の発情は6~10か月の周期で起こり、年に1~2回の周期で発情を繰り返しますが、発情期になると、陰部から鮮血が出るため、排尿時に混じってしまい、血尿と勘違いしてしまいがちです。鮮血の色は少しずつ茶色くなり、2〜3週間程度経過すると、止まるようになるのが特徴です。
この期間の出血が気になる場合は、オムツを使用することをおすすめします。子宮蓄膿症は発情期が終了した後に起こりやすい病気です。発情終了後に出血が続く場合や膿のような分泌物が見られる場合は速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
血色素尿
血色素尿は血尿と同じ「赤い色の尿」という特徴をもちます。しかし、色調の原因となる物質自体は異なります。
血尿の場合、尿に赤血球が混じることで赤く見えるのが特徴です。一方で、血色素尿の場合は、赤血球の色素が混じることで赤色に見えます。何らかの原因で赤血球が大量に破壊され、脾臓や肝臓で処理しきれなくなると、赤血球中の赤い色素であるヘモグロビンが尿中に出てきます。
血尿の場合は、赤血球そのものが含まれますが、血色素尿の場合は色素だけが含まれるのが違いです。
血色素尿の原因は、寄生虫や細菌感染、中毒、自己免疫性疾患などが関係していると考えられています。血色素尿の代表的な疾患として挙げられるのが、「免疫介在性溶血性貧血」です。原因ははっきりとわかっていませんが、感染や遺伝などが関係しているとされています。
また、赤血球に寄生する細菌によって引き起こされる「ヘモプラズマ症」が原因となることもあります。血色素尿は、赤血球が急激に破壊されている際に起こるため、貧血などの重篤な状態になっているおそれがあります。放置すると、さらに危険な状態となるため、赤い尿がみられる場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。
犬の血尿が発覚したら病院に行くべき?
発情期以外の時期で犬の血尿がみられる場合は、動物病院を受診しましょう。血尿は膀胱炎や尿路結石、膀胱腫瘍などが関係し、場合によっては命に関わることもあるからです。
動物病院を受診する際は、獣医師によって正確な診断がなされるよう、血尿の状態を把握しておくことが大切です。記録しておくべき内容としては以下が挙げられます。
-
排尿回数
-
1回の排尿量
-
元気や食欲はあるか
-
排尿時に痛みがあるか
-
いつから血尿が出ているか
-
尿の色味が真っ赤なのか、それとも薄い赤なのか
-
尿全体が赤いのか、それとも尿の一部が赤いだけか
言葉だけでは伝えづらい可能性があるため、尿の写真を撮っておくと参考になるかもしれません。
犬の血尿の治療に要する期間や治療費

犬の血尿の治療に要する期間や治療費はその原因により様々です。
ここでは、犬の血尿を呈するいくつかの例を参考に、治療期間や治療費などについてチェックしてみましょう。
治療期間
血尿の原因が細菌による膀胱炎の場合、症状が軽症の場合は、入院を必要とせず、1~2週間程度で回復することがあります。ただし、膀胱炎から腎臓に影響が波及した場合は、2週間以上の治療日数を要することもあるでしょう。
膀胱腫瘍や結石の摘出などの外科手術を行う場合は、全身状態や排尿に異常がないことが確認されるまで入院が必要になるため、10日〜2週間程度の日数がかかることがあります。注意点として、病状や獣医師の判断によって実際の治療期間は異なることを覚えておきましょう。結石の大きさや種類によっては外科手術が必要なく、薬剤の投与と食事療法で経過を見ることもあります。
治療費
血尿の治療で用いられる薬としては、抗炎症剤や止血剤などが挙げられます。細菌感染の場合は抗生物質の服用も必要です。獣医師の指示のもと、必要に応じて内服や注射による薬剤投与を行います。抗生物質に関しては、症状がなくなってからもしばらく服用を続けることがあります。
膀胱炎や手術の必要がない結石症の場合、診断のための検査費や治療費を合計すると、1〜3万円が相場とされています。外科手術が必要になる場合は、入院費用を含めると10万円以上になるケースもあるでしょう。とくに膀胱腫瘍などの尿路の治療を要する場合は、30万円を超える金額となることもあります。
犬の血尿は予防できる?
犬の血尿は完全に防止できるわけではありません。しかし、予防のために日々の生活で実践できることはいくつかあります。たとえば、適切な飲水量をキープしたり、排尿環境を整える、などを心がけることが大切です。
もし、犬が散歩のときしか排泄をしない場合は、散歩の回数が十分足りているか確認しましょう。排尿回数の減少は、尿路の細菌を洗い流す頻度が低下することになりますので、細菌感染による膀胱炎になりやすくなる可能性があります。
過去に尿結石になったことがある場合は、食事療法によって健康を維持し、予防に努めることが重要です。血尿以外の疾患を予防するためにも、日々の生活から健康的な習慣を心がけましょう。
まとめ 犬の血尿が発覚したらまずは動物病院へ
犬の血尿は泌尿器に炎症が起きることで生じます。血尿の原因となる疾患はさまざまです。膀胱炎や尿路結石、膀胱腫瘍といった病気の影響で血尿が出る場合があります。
なかには緊急手術を要するケースもあり、放置すると重症化して命に関わる場合があります。そのため、血尿がみられる場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。
血尿は、避妊手術をしていない雌の外陰部の出血や血色素尿などと見た目が似ているため、混同しがちです。それぞれの違いを把握しておくと、スムーズに対処ができるようになるため、知識として知っておくことをおすすめします。
犬の血尿がみられる場合は、獣医師がより正確に診断できるよう、排尿回数や排尿量、色調や犬の様子などを伝えてください。犬の健康を守るためにも、普段から様子を細かく確認し、万が一の際には速やかに行動できるようにしましょう。
- 監修者プロフィール
-
岩谷 直(イワタニ ナオ)
経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許