猫の尿路結石が疑われる症状とは?原因や治し方、予防法なども解説【獣医師監修】

2025.01.30
猫の尿路結石が疑われる症状とは?原因や治し方、予防法なども解説【獣医師監修】

飼っている猫の排尿に異変を感じると、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。このまま放置してもいいか、それとも病院に連れていくべきか、判断に迷うケースもあるでしょう。本記事では、尿路結石のおもな症状や原因、治療法や予防法を解説します。自身が飼っている猫の様子をしっかり確認し、必要に応じて動物病院を受診しましょう。


目次


猫の尿路結石とは?


猫の尿路結石とは?

 

猫の尿路結石は、腎臓で作られた尿が尿管を通って膀胱にたまり、尿道を通って排泄されるまでの過程で結石が生じる病気です。


尿は液体ですが、結石は文字通り石のような固体です。大きさは砂粒状のものから数センチのものまで大小異なります。結石ができると、腎臓や尿管、膀胱、尿道などを傷つけたり、詰まらせたりします


結石を構成する要素はさまざまです。代表的なのは「ストルバイト」と「シュウ酸カルシウム」です。その他に尿酸塩やシスチン、シリカなどもありますが、日本で見られる猫の結石はほとんどがストルバイトとシュウ酸カルシウムです。


ストルバイトは「ストルバイト結晶」と呼ばれる結晶が集まってできた白い結石を指します。構成成分は、マグネシウム、アンモニア、リン酸です。リンやマグネシウム、を過剰に摂り、尿のpHがアルカリ性に傾くと発生しやすくなります。また、尿路感染がある場合、pHがアルカリ性に傾きやすく、発生しやすくなります。


年齢や性別による発生率の違いはないと言われていますが、尿道の構造上から、雄猫の方が結石が尿道に詰まりやすいと言われています。治療法としては、療法食を与えることで結石を溶かすことができる場合があります。ただし全ての状態で食事療法が有効なわけではなく、溶けない場合や結石の大きさによっては手術が必要になることもあります。


シュウ酸カルシウムは「シュウ酸カルシウム結晶」が集まってできた茶色の結石で、おもな構成成分はカルシウムです。尿中のシュウ酸やカルシウムが多くなり、尿のpHが酸性に傾くと発生しやすくなります。腎臓病など、体が酸性に傾きやすい体質になっている場合には注意が必要です。


治療法としては、ストルバイトと異なり溶かすことができないため、結石が大きくならないように食事などで維持することがあります。尿路で詰まってしまった場合は手術やカテーテルなどで除去する必要があります。


猫の尿路結石が疑われる症状

 

猫が尿路結石になると、とくにトイレの頻度や尿の状態などに特徴があらわれます。以下の症状がある場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。


  • 尿の色が濃い

  • 血尿または尿がピンク色

  • 頻尿(少量を複数回、1日6回以上が目安)

  • 排尿する素振りで尿が出ない

  • 排尿時に力む、痛がる

  • トイレ以外での排尿や失禁

  • 落ち着きがない

  • 食欲がない(嘔吐がある)

  • お腹周りを触ると嫌がる

  • 排尿後のペットシーツや砂にキラキラした結晶が見られる


尿路結石になると、膀胱炎が起こるケースが多いため、頻繁にトイレへ行くにもかかわらず、尿量が少ない、血尿といった症状が起こります。また、結石が尿道に詰まった場合は、排尿時に痛みで鳴いたりすることもあります。


尿の見た目としては、結晶成分が含まれていることからキラキラ光って見えることもあるでしょう。この結晶が集まり、結石として尿道に詰まると、尿路閉塞を起こす場合があります。


尿路閉塞とは、「腎臓→尿管→膀胱→尿道」といった排泄経路のいずれかで結石などが詰まることで排尿障害が起こる状態です。適切に排尿できず、膀胱が最大限に張った状態になるため、激しい痛みをともないます。放置すると、急性腎不全(急性腎障害)や尿毒症などの生命にかかわる状態に進行することもあり、注意が必要です。

 

猫の尿路結石の原因


猫の尿路結石は、食習慣や生活習慣などが原因となり起こります。以下の要因に当てはまるものがないかチェックしましょう。


尿路結石の原因

概要

栄養バランスの偏り

結石や結晶の主成分は尿中のリン酸やカルシウム、マグネシウムなどのミネラル成分。これらを過剰に摂取し続けると、尿中のpHのバランスが崩れ、結石ができやすくなる。また、たんぱく質の過剰摂取も結石の発症リスクを高める要因になる。

運動不足

運動不足が原因で肥満になり、トイレに行く回数が減る。排泄の回数が減ると、尿中のミネラル濃度が高まり、結石ができやすくなる。

肥満

肥満になると、脂肪で尿道が圧迫されて狭くなり、排尿困難になって結石ができやすくなる。とくにオス猫は尿道が細いため、排尿困難になりやすい。去勢手術の後は特にリスクが高い。

飲水量不足

飲水量が不足すると尿が濃くなり、結石のリスクが高まる。猫はもともと水の少ない乾燥地帯に生息していたため、少量の水しか飲まない傾向があることから、結石ができやすい。とくに冬になると、寒さが原因で水を飲む量が減り、結石が発生するケースがある。

ストレス

ストレスを感じると、トイレの回数や飲水量が減り、結石ができるリスクが高まる。ストレスの要因としては、引っ越しや近隣の工事、トイレ位置の変更や同居猫の増加などが挙げられる。とくにトイレが汚れていたり、設置場所が気に入らなかったりすると、排泄を我慢する傾向がある。

遺伝

スコティッシュ・フォールドやアメリカン・ショートヘアー、バーミーズやヒマラヤンなどの猫種は、遺伝的要因から尿路結石のリスクが高いとされている。

細菌感染

尿道から細菌が侵入し、炎症が起こると、尿路結石のリスクが高まる。とくに細菌が膀胱内で増殖すると、尿がアルカリ性に傾きやすくなり、ストルバイト結石が起こりやすくなる。



猫の尿路結石は手術が必要?


猫が尿路結石になったからといって、必ずしも手術が必要になるわけではありません。食事療法や薬物療法で治療ができる場合もあるからです。


しかし、療法食を与えたり、薬を投与したりしても改善がみられない場合は手術が必要となる場合があります。


尿路結石は早期発見ができれば、悪化する前に治療ができるため、手術が避けられるケースも多いです。猫の体に負担がかからないようにするためにも、異変を感じたら速やかに動物病院を受診することが重要です。



猫の尿路結石の治し方は?


猫の尿路結石の治し方は?

 

猫の尿路結石を治療する方法は、おもに以下の3つです。


  • 食事療法

  • 投薬

  • 手術


猫の容態や結石の進行状況によって選択される方法は異なります。動物病院の医師の指示に従い、適切な治療を受けましょう。

食事療法

食事療法によって尿石の原因となる成分の摂取を減らすと、尿石ができにくくなります。摂取する水分量を増やすことで排尿を促すことは全ての尿石で有用な方法です。ウェットフードにしたり、ドライフードをふやかしたりして飲水量を増やすことをおすすめします。猫の食事療法の内容は、結石の種類によって異なります。具体的な内容は以下のとおりです。


結石の種類

食事療法の内容

ストルバイト結石

尿がアルカリ性に傾くと発症しやすくなるため、尿を酸性化するために低マグネシウムもしくは低リンの食事をとる。オメガ3脂肪酸は尿石に関連する膀胱炎の管理に役立ちます。

シュウ酸カルシウム結石

尿が酸性に傾くと発症しやすくなるため、尿を過剰に酸性化しないような食事をとる。クエン酸カリウムやビタミンB6の強化はシュウ酸の形成抑制に役立ちます。オメガ3脂肪酸は尿石に関連する膀胱炎の管理に役立ちます。中等度にたんぱく質・ナトリウムを制限した食事をとる。

シスチン結石

酸性尿では溶けにくく、アルカリ尿では溶けやすいため、尿を中性~アルカリ化するために動物性たんぱく質の制限をする必要がある。さらに、低ナトリウム食をとるのが効果的。

シリカ結石

尿が酸性に傾くと発症しやすくなるため、アルカリ性に傾けるための食事をとる必要がある。大豆やグルテンなどを含む食事は避けたほうがいいため、植物由来のたんぱく質を抑えた食事が効果的。

尿酸塩結石

尿が酸性に傾くと発症しやすくなるため、尿をアルカリ化するために、適切な低たんぱく質、低プリン体の食事を食べると効果的。


治療期間は、猫の容態や動物病院によって異なります。また、結石を溶かすための療法食(ドライフード)にかかる費用の目安は3~4kgの猫で1カ月当たり5,000〜8,000円程度です。


猫が療法食を食べてくれないときは、鶏肉の茹で汁をかけると食欲を誘えることがあります。水分が摂取でき、尿量を増やす効果も期待できることがあるため試してみてもいいかもしれません。


ただし、療法食の成分バランスを崩す可能性もあるため、試す際は獣医師に相談してみましょう。


それでも食べてくれないときは、同一成分が含まれる他の療法食を試すことをおすすめします。同じ成分が入っていて香りや味が異なるため、チャレンジしてみましょう。

投薬

一般的にはお薬の投与で治療するケースはほとんどありませんが、特定の状況や結石の種類によっては検討されることがあります。例えば、尿管に結石が詰まっている状況で全身状態が安定している場合は、排尿を促す利尿剤や尿管の抵抗を下げる目的でいくつかの薬剤が使用されることがあります。効果が限定的なためあまり実施されることはありませんが、外科的な治療が困難な場合などに検討されることがあります。また、シュウ酸カルシウム結石を何度も再発する場合は、尿中のカルシウム濃度を低下させる目的で特定の利尿剤を使用することがあります。

手術

内科的な治療で改善できない場合や既に閉塞による排尿障害が見られる場合などでは、手術が必要となる場合があります。尿が全くでない状態が24~48時間以上続くと命に関わることがあるため、その場合は迷わず動物病院に相談しましょう。


結石が形成されている部位や状況により手術の方法も様々ですが、尿管や膀胱を切開して結石を取り出すことが一般的です。オスの場合は、尿道に詰まりやすいため陰茎を切除して肛門の下に尿道口を移動させる手術を行うことがあります。尿管に詰まった結石の除去が難しいケースや全身状態が悪化しているため手術の時間を短縮したいケースでは、腎臓と膀胱を特殊なカテーテルでつなげる方法が選択されるケースも増えてきています。


上記を実施しても、尿管結石が再発し、手術後に炎症が起こって再手術が必要になる場合もあります。


手術費用は動物病院や手術の内容、猫の容態などによってかなり異なりますが、10〜20万円程度、場合によってはそれ以上かかると考えられます。手術の場合は入院が必要になり、排尿に問題がないことを確認するまで数日~数週間の治療期間が必要です。


猫の尿路結石の予防方法とは?再発を防ぐためにも

 

猫の尿路結石の予防方法とは?再発を防ぐためにも


猫の尿路結石は、食生活や生活環境を調整することで予防につなげられることがあります。以下の対策を実践し、猫の健康を守りましょう。

水をたくさん飲めるよう工夫する

水をたくさん飲むようになると、尿に含まれるミネラル成分が薄まり、また排尿回数を増やせることで細菌を洗い流すことができる可能性があります。猫が水を多く飲めるようにするためには、猫が好む水のタイプを知り、常に用意しておくことが大切です。猫は水にも好き嫌いがみられる事があるため、あまり水を飲まない場合は、以下のような水を幾つか試してみるといいかもしれません。


  • 新鮮な水

  • 冷たい水

  • 温かい水

  • くみ置きの水

  • 蛇口から出る水


ただし、硬水のミネラルウォーターは結石の原因となるミネラルが多く含まれていますので与えないようにしましょう。また、水を置くも重要なポイントです。家族の近くで飲むのが好きな猫もいれば、静かな場所で飲むのが好きな猫もいます。


いろいろな場所に水を置き、どの場所なら猫が好んで飲むかをチェックしましょう。また、水は一箇所だけに設置するのではなく、複数箇所に置くのがおすすめです。

トイレの使いやすさを見直す

猫が排尿したいときにストレスなく使用できるよう、トイレの使いやすさを考慮し、適切な環境を作っておきましょう。トイレの数は、家にいる猫の数+1個が適切です。


また、トイレの大きさは猫の体長の1.5倍程度が適しています。市販のトイレのサイズが合わない場合は、家にある衣装ケースなどで代用することもできます。


猫は、扉や屋根がなく開放的なトイレを好みます。また、トイレの砂は、猫によって好みが分かれます。木や紙、シリカゲルや鉱物系などさまざまな種類を試し、猫が好むものを選択しましょう。


トイレの設置場所としては、猫が落ち着きやすく、暑さや寒さなど気温の影響を受けにくい位置が適切です。設置後は、定期的に砂を取り替えたり、掃除をしたりして、清潔な状態を維持してください。

食事バランスを意識して肥満を避ける

猫は肥満になると、結石ができるリスクが高まると言われています。肥満を防止するためには、健康的な食事を心がけることが重要です。


たとえば、以下のような栄養素を摂取できるように意識してみましょう。


  • 食物繊維:満腹感が得られて腸内環境が整いやすくなる

  • L-カルニチン:アミノ酸の一種で脂肪が減少しやすくなる

  • たんぱく質:筋肉量を落とさないようにする


摂取カロリーを意識して通常の食事量を減らしてしまうと、必要な栄養素が不足し、体調を崩す原因になります。カロリーを減らしたい場合は、減量用の療法食を活用するのがおすすめです。


減量用の療法食は、カロリーを減らしながら必要な栄養素を効率的に摂取できます。健康的に減量したい場合は、減量用の療法食の活用について獣医師に相談してみましょう。

 

まとめ 猫の尿路結石が疑われる場合はすぐに病院へ

 

尿路結石は、日常生活に支障をきたす疾患です。排尿時の痛みや血尿、食欲不振や嘔吐などを引き起こします。放置すると、尿路閉塞になり、急性腎不全(急性腎障害)や尿毒症などを併発するリスクがあります。


猫がトイレによく行くのにおしっこの量が少ない、尿の色が濃く、ピンク色になったりする場合は、速やかに動物病院を受診してください。尿路結石と診断された場合は、獣医師の指示のもとで食事療法や薬物療法、手術などを受け、治療に専念しましょう。


尿路結石を防ぐためには、普段から猫に水をたくさん飲んでもらう工夫をする必要があります。また、トイレをする際にストレスにならないよう、リラックスできる排尿環境を作ることも重要です。


栄養バランスのとれた食生活も意識しながら尿路結石を防ぎ、大事な猫の健康を守ってあげてください。

 

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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