【獣医師監修】クッシング症候群の犬が食べてはいけないものとは?食事管理のポイント

2025.05.09
【獣医師監修】クッシング症候群の犬が食べてはいけないものとは?食事管理のポイント

左右の腎臓の頭側にある小さな副腎という臓器からは、副腎皮質ホルモンが分泌されていて、肝臓における糖新生や筋肉におけるタンパク質の代謝促進、抗炎症・免疫抑制など、生命を維持するための重要な役割を果たしています。


この副腎皮質ホルモンには、アルドステロン、コルチゾール、アンドロゲンがありますが、主にコルチゾールが過剰分泌される病気がクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)で、犬によく見られる病気です。コルチゾールはストレスから体を守り、糖利用の調節、血圧維持に必要なホルモンです。この病気は肥満になりやすく、糖尿病や高血圧を併発することもあります。適切な治療を行うことでこれらの健康リスクを抑えることができるケースもありますが、病気の進行状況や治療への反応によっては食事管理が必要になることがあります。


クッシング症候群の犬の食事管理で配慮すべきことや、好ましくないものなどについて詳しく解説します。

目次

 

クッシング症候群の犬に食事管理は必要か

 

副腎は、中心部分の副腎髄質とそれを覆っている副腎皮質のそれぞれから異なる複数のホルモンを分泌し、体の働きを調節している臓器です。クッシング症候群では、この副腎皮質ホルモンの中のコルチゾールが過剰に分泌されてしまいます。


犬の場合、原因には脳下垂体の腫瘍(原因の約80~90%、腫瘍の殆どは良性ですが、稀に悪性のケースがあります)、副腎の腫瘍(約15~20%)、ステロイド剤の長期使用の3つの要因があります。どの犬種でも発症する可能性がありますが、8歳以上での発生が多く、プードルやダックスフンド、ミニチュア・シュナウザー、ビーグルなどで発生が多いとされています。


主な症状には食欲亢進、多飲多尿、体重増加、筋肉減少、ポットベリー(ビール腹のような太鼓腹)、乾燥して薄い皮膚、皮膚の色素沈着、創傷治癒の遅延、腹部の脱毛、高血圧、高血糖、パンティング(暑くない状況でも口を開けて息をする浅い呼吸)が挙げられます。クッシング症候群を発症すると太りやすくなり、合併症として糖尿病や高血圧を併発するリスクが高まります。


食事でクッシング症候群を治すことはできませんが、治療に加えて食事管理を行うことで、糖尿病や高血圧などの合併症の併発リスクを抑えることができるかもしれません。そのため、クッシング症候群の犬への食事管理は有益なものとなる可能性があるといえます。ただし、食事管理を行う場合は、使用する薬や他の病気との兼ね合いがあるため、必ず獣医師に相談しながら行うようにしましょう。

 

クッシング症候群の犬が控えるべき食事

 

クッシング症候群の犬が控えるべき食事

 

クッシング症候群の犬への食事管理の目的は、食欲と体重をコントロールし、糖尿病や高血圧の併発リスクを下げることです。この観点で考えた場合、クッシング症候群の犬に対して、健康な犬と比較して避けた方が良い食事として下記の3点が挙げられます。


  • 高脂肪な食事

  • 高炭水化物(高GI値)な食事

  • 高ナトリウムな食事


これらの食事について、詳細を解説していきます。

高脂肪な食事

副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドの一種であるコルチゾールは、筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸を血液中に供給し、筋細胞や脂肪細胞への血中グルコースの取り込みを抑制します(ブドウ糖の利用を抑制)。また脂肪組織では中性脂肪をグリセロールと遊離脂肪酸に分解し、これらを血中に送り出します。さらに、これらの血中アミノ酸やグリセロールを利用して、肝臓で新たにグルコースを合成します(糖新生:ブドウ糖の生成促進)。


コルチゾールのこのような作用により血糖値が上昇した結果、肝臓におけるグリコーゲン(体内でエネルギーを蓄えるための糖分の一形態)の合成が促進されます。コルチゾールが過剰に分泌されるクッシング症候群では、グリコーゲンの貯蔵限界を超えるグルコースが合成されるため、余剰分が脂肪に変換され、肝臓や皮下脂肪、内臓脂肪として蓄積されて肥満になりやすくなります。


そのためクッシング症候群の犬への高脂肪な食事は、更なる脂肪の蓄積を促し、肥満を助長する可能性があるため、避けるべきです。具体的に避けた方が良い高脂肪な食材は、下記になります。手作りフードを検討している場合は、参考にしてください。


  • 食肉加工品(ハム、ソーセージ等)

  • 豚肉、牛肉

  • サーモン

高炭水化物(高GI値)な食事

前述の通り、クッシング症候群の犬は過剰にコルチゾールが分泌され、血液中の糖分の利用が抑制されるだけでなく、糖分の生成が促進されるため高血糖になりやすく、食事内容によっては糖尿病を併発するリスクが非常に高まります。


糖尿病とは、インスリンが十分に働かないために、食事を摂った後に数時間経過してもブドウ糖が有効に利用されず、血糖値が下がらない状態が続く病気です。食後に血糖値が急激に上昇するような食事が、糖尿病を発症させやすいといわれているため、食後の血糖値が緩やかに上昇するような食品を選ぶことが大切です。


炭水化物を含む食品を食べた後の血糖値の上昇速度は、GI値という指標で表されます。ブドウ糖を摂取してから血糖値が上昇するまでの時間をGI値100として、その食品を食べた後に血糖値が上がるまでの時間を数字で表したものがGI値です。100に近い程血糖値が急激に高くなることを示しています。


具体的にはGI値が70以上の食品が高GI食品、56〜69が中GI食品、55以下が低GI食品とされています。クッシング症候群の犬に食べさせる食材にも、低GI食品を選ぶようにすると良いでしょう。


与えるべきではない、高GI食品の具体例は下記になります。手作りフードを検討している場合は参考にしてください。


  • 白パン

  • 白米

  • ジャガイモ、サトイモ

  • にんじん

  • とうもろこし

 

高ナトリウムな食事

クッシング症候群の症状の中には、高血圧も見られることがあります。ナトリウム(塩分)を摂り過ぎると、血中のナトリウム濃度を下げるために血管内に水分を溜めてしまい、高血圧を悪化させてしまいます。そのため、クッシング症候群に伴って高血圧を呈している犬には、ナトリウムの摂取を制限する食事管理が有効なことがあります。


高血圧は、そのままにしておくと腎臓や心臓など、様々な臓器に負担をかけてしまうため、食事管理でのコントロールを検討することも大切です。


基本的に、人用に調理した食べ物はすべて犬には塩分が高過ぎますので、飼い主さんが食べているものを愛犬とシェアすることは避けましょう。与えるべきではない、高ナトリウムの食品の具体例は下記になりますので、手作りフードを検討している場合は参考にしてください。

  • 食肉加工品(ハム、ソーセージ等)

  • チーズ

  • 鰹節

  • しらす干し


クッシング症候群の犬に与える食事のポイント

 

クッシング症候群の犬に与える食事のポイント

 

犬のクッシング症候群は、脳下垂体の腫瘍が原因であることがほとんどです。部位や腫瘍の状態により、外的切除で完治できることもありますが、それが難しい場合は、基本的に一生涯にわたる投薬治療が必要になります。


投薬治療と並行して必要に応じて食事管理を行うことで、できるだけ健康リスクを抑えてあげることが、愛犬のためには重要です。


クッシング症候群の犬が併発しやすい肥満、糖尿病、高血圧を防ぐための食事のポイントは、下記の3点です。


  • 良質な低脂肪

  • 適量のタンパク質

  • 血糖値コントロール



では、具体的に解説していきましょう。

良質な低脂肪

クッシング症候群の犬は、コルチゾールの分泌過剰により高脂血症を伴うことが多く、コレステロールや中性脂肪の値が高くなりがちです。そのため食事・ドッグフードの脂肪量を抑える必要がありますが、ただ単に低脂肪であれば良いというわけではありません。「良質な脂肪」を含む食品を選ぶことが大切です。


食物中に含まれている一般的な脂肪は中性脂肪といい、グリセロール1分子に3個の脂肪酸が結合した形をしています。グリセロールはすべての脂肪に共通しているため、脂肪の質は脂肪酸の違いで決まります。


脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸の中には、体内で合成できないため、食物から摂取しなければならない必須脂肪酸と呼ばれるものがあります。


必須脂肪酸は動物の種類によって異なり、犬にとっての必須脂肪酸は不飽和脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸です。不飽和脂肪酸はさらにいくつかの分類に分けられていますが、リノール酸はオメガ6脂肪酸、α-リノレン酸はオメガ3脂肪酸という分類に含まれます。これらの脂肪酸は、血中の脂質のバランスを改善することが報告されています。


クッシング症候群の犬の食事の脂肪には、これらのオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸がバランス良く、かつ適正な量だけ配合されている新鮮な食材であることが重要なポイントになります。なお、クッシング症候群の進行度や併発している疾患によっても適切なバランスや量は変わりますので、その都度獣医師の指導に従いましょう。

適量のタンパク質

クッシング症候群の特徴であるコルチゾールの過剰分泌は糖新生を促進するため、筋肉に含まれるタンパク質を過剰に分解してしまいます。そのため、食事から良質なタンパク質を適切な量だけ摂取させることが大切です。


筋肉から過剰に分解されたタンパク質を補い、かつ消化器や腎臓に負荷をかけないためには、クッシング症候群の進行度などに合わせて適切な量を見極める必要があります。そのため、かかりつけの獣医師と十分な連携を図り、その時々に適したタンパク質の量を見極めるように心がけましょう。


また、手作りフードの場合は、消化器官への負荷を和らげるために、消化・吸収・代謝されやすい鶏肉、卵、魚などの良質なタンパク質源を選び、かつ消化吸収されやすい調理法を選ぶこともポイントです。

血糖値コントロール

クッシング症候群でコルチゾールが過剰に分泌される犬が高血糖になりやすく、それが糖尿病を併発するリスクを高めることは、前述の通りです。そこで、クッシング症候群の犬の食事も、糖尿病の犬の食事と同様に食後に血糖値が急上昇しないように配慮することが大切です。


先にご紹介した、低GI食品を取り入れた食事は、血糖値の急上昇を招かない、おすすめの食材になります。低GI食品の具体例を挙げると、下記になります。犬の体質や体調によっては食べさせない方が良い食材もありますので、手作りフードを検討されている場合はその都度獣医師と相談してください。


  • 葉物野菜

  • きのこ類

  • 豆類

  • 肉類

  • 魚介類

  • 牛乳(乳糖不耐症の犬には適さないため獣医師にご相談ください)


また、可溶性食物繊維を多く含んでいる食事は、食物が胃の中に留まる時間を延長させ、小腸での糖の吸収を穏やかにさせるため、食後の血糖値の急上昇を防ぐ効果が期待できます。

 

クッシング症候群の犬がごはんを食べないときの対策


クッシング症候群の症状には「食欲亢進」があり体重増加を招きやすいため、他の健康リスクの抑制とも併せて「食欲と体重のコントロール」を中心とした食事管理が大切だということを説明してきました。食事管理は、病気の進行度合いや併発している病気の有無とも深く関わるため、獣医師のアドバイスを受けながらその時々の状況に合わせて密な管理を行うことが大切です。


クッシング症候群が進行して末期になると、食欲不振を起こすこともあります。食欲がなくなり栄養を摂取できなくなることは、病状の進行を促進することにつながりますので、逆に必要な栄養を食事から補給できるようなサポートが必要になります。


この場合も、かかりつけの獣医師に相談をした上で、食べてもらうための工夫を施したり、場合によっては強制給餌への切り替えを検討する必要があるでしょう。いずれの場合も、かかりつけの獣医師との密な連携が欠かせません。


参考までに、一般的に食欲の落ちた犬に対して食事をしてもらうためにできる工夫ポイントをご紹介します。


  • 食事の切り替えは、時間をかけて少しずつ新しいフードを増やしていく

  • 新鮮なフードを40℃弱程度に温めてから与える

  • ウェットタイプのフードなど、水分含有量の多いフードや調理法にする

  • 必要最小限の範囲で、愛犬が好む風味を加える

 

クッシング症候群の犬の食事についてよくある質問

 

クッシング症候群の犬の食事についてよくある質問

 

ここまで、クッシング症候群の犬の食事管理について解説してきました。最後に、クッシング症候群の犬の食事についてよくある質問をご紹介します。

おやつは与えても良い?

適切な範囲内の質と量のおやつであれば、クッシング症候群の犬におやつを与えることに、問題はありません。


クッシング症候群の犬のおやつには、食事と同じように良質で低脂肪なもの、低GI食品、低塩分なものを選びましょう。鶏肉や野菜などを使った低脂肪のおやつを選び、1日の総カロリー数の1割程度に収まる範囲で与えることが望ましいでしょう。


ただし、病気の進行度合いや併発している病気の有無によっても調整が必要になります。必ずかかりつけの獣医師のアドバイスを受けながら与えるようにしてください。

手作りごはんを与えても良い?

犬と人では必要となる栄養素や栄養バランスに違いがあり、特にクッシング症候群という病気を発症している犬に対する食事を手作りで用意するのはとても難しいことです。ただし、手作り食を与えてはいけないということではありません。


犬の栄養学とクッシング症候群という病気の特徴をよく学んだ上で、かかりつけの獣医師とよく連携して、愛犬の症状や体質に合わせた手作り食を準備しましょう。

サプリメントは有効? 

サプリメントとは、人用では栄養補助食品、健康補助食品、機能性食品などと呼ばれることもある食品で、動物用ではペットフードの「その他の目的食」に分類されます。したがって、医薬品ではありません。


しかし「クッシングにも効果あり」や「クッシング症候群のサポートに」といった広告を目にすると、医薬品のような感覚でクッシング症候群の犬に飲ませたくなるかもしれません。


一言でクッシング症候群といっても、犬によって進行度合いや併発している病気の有無などが異なります。愛犬の病状に対して効果が見込めそうか、サプリメントを与えても良いか、などについては獣医師とよく相談をした上で決めることをおすすめします。

 

まとめ クッシング症候群の犬は食事管理が重要

 

クッシング症候群は、正式名称を副腎皮質機能亢進症といい、副腎皮質から分泌されるコルチゾールというホルモンの量が過剰になることでさまざまな症状が引き起こされる内分泌系の病気です。


コルチゾールは糖新生などに深く関わるホルモンで、過剰に分泌されることで食欲亢進、体重増加、高血糖、高血圧などの症状が見られ、糖尿病や高血圧を併発するリスクの高い病気です。そのため投薬治療などと並行して、食欲や体重コントロールを中心とした食事管理が必要になることがあります。


今回ご紹介した食べさせてはいけない食事や食事管理を行う上で注意すべきポイントを参考に、かかりつけの獣医師と密な連携を取りながら、愛犬の看病を行ってください。

 

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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