【獣医師が解説】犬の糖尿病を理解する:症状、原因、治療ガイド

2024.05.29
【獣医師が解説】犬の糖尿病を理解する:症状、原因、治療ガイド
人間と同じように、犬も糖尿病を患うことがあります。原因など相通ずる面はあるものの、人間と犬では体の大きさも違えば、構造そのものも異なりますから、すべてが同じというわけではありません。愛犬の健康を守るためにも、犬の糖尿病について理解を深め、対処していきましょう。症状や原因、治療法だけでなく予防法についても解説いたします。
目次


1.犬の糖尿病とは?


はじめに、犬の糖尿病について概要を把握しておきましょう。糖尿病とは、簡単に言うと「血糖値が高い状態が続いてしまう病気」です。血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度を指します。

なぜ血糖値が高い状態が続くのでしょうか。その原因は2つあります。1つは、血糖値を下げるために膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが不足している場合です。もう1つは、インスリンの分泌量は足りているにもかかわらず、何かしらの原因でインスリンが作用しにくくなり、血糖値が下がらない場合です。

分類上、前者を「1型糖尿病」、後者を「2型糖尿病」とし、犬の多くは1型糖尿病に分類されます。2型糖尿病と診断される犬はあまりいません。

糖尿病になるとどんな問題が起きるのでしょうか。糖分は様々な臓器を構成する細胞が働くためのエネルギーであり、細胞にエネルギーが供給されることにより生命活動が可能となります。インスリンはこの糖分を細胞に取り込みやすくするのに必要となります。糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気であり、血液中に十分な糖分があるにもかかわらずそれを必要とする細胞に十分に供給されないという問題が起こります。

つまり、糖尿病になると細胞の活動に支障が出ることで、腎臓や肝臓などの様々な臓器の機能に障害が出ることになり、様々な合併症を引き起こすことがあります。さらに、生命活動の維持にも影響を及ぼす深刻な病気です。


2.犬の糖尿病の症状


次に、犬が糖尿病になるとどのような症状が出るのかを確認しましょう。症状を知っていれば、早期に気づくことができます。

わかりやすい症状の一つとして、水をたくさん飲むようになり排尿量も増えることが挙げられます。血液中に糖分が多い状態が続くとそれを薄めようと水分を欲するようになり多量の水分を摂取します。摂取水分量が多くなることで排尿量も増加します。これが【多飲多尿】という状況です。目安として1日に体重1kgあたりに100ml以上(体重5kgなら500ml以上)飲んでいる場合は、多飲の可能性があります。また、尿の色調が明らかに薄く(透明に近い)、量や回数が普段より多くなっている場合は多尿の可能性があります。

また、【食欲が増加】することもわかりやすい症状の一つです。糖分が行き渡らない細胞は、飢餓状態に陥り、どうにかして栄養を確保しようとするため、摂食中枢が刺激され、食べる量が増えます。

しかし、糖尿病ではいくら食べても血液中に満たされた糖分が充分に細胞に行き渡ることはありません。この状態が続くと、犬の体は蓄えてある脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとします。そのため、食べる量は増えているのに脂肪が分解されていくことにより【体重は減る】という矛盾が生じます。これも糖尿病の症状です。

こうして栄養分が行き渡らない状態が慢性的になると、犬の元気は少しずつ失われていきます。細胞がうまく機能しないため、皮膚や被毛の生成にも影響が出て、毛艶が悪くなることもあります。また、糖尿病が進行し末期になると、脂肪の分解により生成されるケトンと呼ばれる物質が増加することで重度の脱水、下痢、嘔吐、昏睡といった【糖尿病性ケトアシドーシス】と呼ばれる重篤な状態に陥ることがあります。このように、糖尿病の症状は多岐にわたり、その他にも白内障や免疫力の低下による感染症などの合併症を発症するリスクもあります。


3.犬の糖尿病の原因


次に、犬の糖尿病の原因について見ていきましょう。糖尿病は、インスリンの分泌量が減少したり、分泌されたインスリンが効きにくくなったりすることで発症します。その要因は以下の通りです。

遺伝的な要因:
トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ピンシャー、ジャックラッセル・テリアなどは遺伝的に好発犬種とされています。

発情後や妊娠時の黄体ホルモン分泌:
女性ホルモンの1つであるプロゲステロンがインスリンの作用を抑制してしまう働きを持つことが関連しています。

膵炎など膵臓の機能障害:
膵臓に問題がある場合、インスリンの分泌が正常に行われないことがあります。

クッシング症候群やステロイド剤の多用:
血糖値を上昇させるコルチゾールと呼ばれるホルモンが過剰に分泌される疾患や、アレルギー疾患等で使用されることが多いステロイド剤の多用が原因となることがあります。

自己免疫性:
インスリンに対する抗体が産生されることでインスリンが作用しなくなることがあります。


4.犬の糖尿病の治療法


愛犬が糖尿病と診断された場合、具体的にはどのような治療が行われるのでしょうか。治療法はいくつかあります。

まず、不足しているインスリンを投与することです。基本的には、毎日同じ時間に注射を用いて投与します。インスリン投与は生涯にわたり必要な治療法であり、飼い主が自宅で行うことが一般的です。投与するインスリンにはいくつかの種類があるため、効果や経過を見ながら進めていきます。

次に、食事療法です。血糖値をコントロールできるよう配慮された糖尿病治療専用の食事を与えます。獣医師のアドバイスに従って進めることが重要です。

また、輸液治療という方法もあります。多尿により必要な水分が排出されてしまう場合、体内の水分や電解質のバランスを改善するための治療です。


5.犬の糖尿病の治療費用


糖尿病の治療には費用もかかります。以下は一般的な治療にかかる費用の目安です。

インスリン注射:
インスリンの種類や犬の体重により異なりますが、月額で約1万円~2万円程度かかります。

定期的な血糖値チェック:
獣医師の診察費用として、1回あたり約5,000円~8,000円程度です。頻度によっても異なります。

糖尿病専用の食事:
市販の専用食は1袋あたり数千円から1万円程度します。食事量によって月額費用は異なりますが、目安として体重5kgの犬の1ヶ月分で約7,000~8,000円となります。

その他の治療:
必要に応じて輸液治療や合併症の治療が追加されることがあります。それぞれ数千円から数万円の費用がかかることがあります。


6.犬の糖尿病の予防対策


最後に、犬の糖尿病の現実的な予防法はありませんが、日々の生活で心がけると良いポイントは以下の通りです。

栄養バランスの取れた食事:
適切な栄養を摂取させることが大切です。

避妊手術:
雌犬の場合、避妊手術により糖尿病の発症リスクを抑えることができます。

健康診断:
定期的に血糖値をチェックするようにしましょう。

犬の糖尿病についてご理解いただけたでしょうか。糖尿病になると、日々のインスリン注射や食事管理が欠かせなくなります。症状が進行すると命にかかわることもあります。多飲多尿、食欲の増加など、愛犬にいつもと違う様子が見られたときは注意深く観察し、早めに獣医師に相談して愛犬の健康を守りましょう。


監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許


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