高齢の猫の歯が抜ける原因と対策
猫と人間は、歯の形や本数も違いますし、口腔内の構造も違いますが、共通することもあります。それは、猫も人間も何かしらの事情で歯が抜けることがあるということ。特に高齢猫の場合、その可能性が高くなります。ではいったい、猫の歯はどうして抜けてしまうのでしょうか。その原因や、抜けないようにするための対策について解説します。
高齢の猫の歯が抜ける原因
高齢となった猫の歯が抜ける代表的な原因は「歯周病」「歯頚部吸収病巣」「口腔内腫瘍」の3つで、いずれも口の中の病気です。そのほかにも、年齢とともに歯を支える土台が弱くなったために、痛みを伴わずに抜けてしまうこともあるようです。
猫の歯は生え変わる?
人間の歯は乳歯から永久歯へと生え変わりますが、では猫はどうなのでしょう? じつは猫の歯も乳歯から永久歯へと生え変わるのです。時期は猫によって多少の違いはあるものの、だいたい生後6カ月ごろまでには乳歯が抜けて永久歯に生え変わります。永久歯が自然に抜けることはありません。抜けてしまった場合は、歯周病など口の中に何らかの異常が起きているということになります。
ちなみに乳歯の生え変わりについては、「子猫のときから飼っているけれど、生え変わったことに気づかなかった」という飼い主さんも多いのでは? それは、仕方のないことといえるかもしれません。なぜなら、抜けた乳歯を猫が飲み込んでしまうケースがほとんどだからです。飲み込んでしまった乳歯は便となって排出されますので、生え変わりを確認したい場合は便をチェックするという手もあります。
高齢猫の歯が抜けることにつながる病気
ここでは、先ほどお伝えした高齢猫の歯が抜ける原因となる病気について、詳しく見ていくことにしましょう。
歯周病
歯周病とは、口の中で起こる炎症を総称した病名です。食べ物を食べると、歯に歯垢がたまります。たまった歯垢は、やがて歯石に。歯垢や歯石には多くの細菌が繁殖しますが、その細菌が歯周ポケットと呼ばれる歯と歯ぐきのすき間に侵入すると歯肉に炎症が起き、歯ぐきの腫れや出血などの症状が出る場合があります。さらに、口臭がきつくなる、よだれが増えるといった症状も見られます。
ちなみに歯周病は、3歳以上の猫の多くがかかっているといわれる病気です。高齢猫の場合、若いころに発症した歯周病が進行してしまい、最終的には歯が抜けてしまうということがあります。
参考までにお伝えしておくと、歯周病の影響は口腔内にはとどまらないのが恐いところです。重症化すると、鼻や顔の骨のほか内臓の病気を誘発することもあります。
歯頚部(しけいぶ)吸収病巣
歯頚部吸収病巣は、歯と歯ぐきの境界部分が溶けてしまう病気です。7歳ごろから、この病気にかかる猫が増えるといわれています。おもな症状として挙げられるのは、歯ぐきの腫れ、よだれの増加、強い口臭など。痛みが伴うと食欲が落ちるため、それまでより食事量が減ることでも気づけるかもしれません。
かつては猫ならではの病気とされていましたが、最近はほかの動物にも見られるようになった病気です。
口腔内腫瘍
口腔内腫瘍とは、猫の口の中にできる腫瘍、いわゆる「できもの」を指します。腫瘍のできる部位や大きさはさまざまですが、その多くが悪性腫瘍で、進行が早いことが特徴です。この腫瘍により歯ぐきの状態が悪化すると、最終的に歯が抜けてしまうことがあります。
高齢になって歯が抜けるのを防止するための対策
では、高齢になった猫の歯が抜けるのを防ぐために、飼い主さんにできるのは、どのようなことでしょうか。
ひとつは、定期的に獣医師の健康診断を受け、そのときに口腔内や歯の状態も診てもらうことです。その際のアドバイスを日常生活に生かしていきましょう。
もうひとつは、人間と同じように歯磨きを習慣にすることです。歯垢は思いのほか早く歯石に変化してしまいます。歯垢であれば歯磨きで対処できますが、歯石になると歯磨きでは取り除くことができません。できれば毎日、難しい場合は3日に1回程度、歯磨きをするようにしましょう。
ただ、猫が嫌がる場合、無理強いは禁物です。まずは口の周りに触れることに慣れさせる、次は歯に触れることに慣れさせるというように、ステップを踏んで進めることがポイント。歯ブラシが使えないなら、歯磨きシートのほか、歯のケアグッズなどの利用も検討してみてください。
動物病院で歯石を取り除く場合、安全に処置するために猫に全身麻酔をかけて行われます。全身麻酔は、万全を期していても老猫の体にある程度の負担をかけることは否めません。麻酔で体調不良になる可能性もゼロとは言い切れません。まずは歯周病にならないよう、日ごろの歯のケアを心がけていきましょう。
高齢になった猫の歯が抜ける原因のほとんどは、歯周病をはじめとした口腔内の病気です。病気は猫にとってつらいものですし、歯が抜けるというのは、かなり症状が進行している可能性があります。ぜひ愛猫の歯の健康を守るためにも、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。あわせて、日々の歯磨きも実践してみてくださいね。
- 監修者プロフィール
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牛尾 拓(ウシオ タク)
経歴:岩手大学農学部獣医学課程卒業。動物病院勤務、製薬会社の学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許