【獣医師監修】猫の口内炎の症状・原因や治療法とは?自然に治ることはある?
口内炎になり、痛みを感じたことがある方もいるのではないでしょうか。実は、猫も人と同じように口内炎になることがあります。違う点を挙げるとすれば、人の口内炎は部分的ですが、猫の口内炎は口の中全体に広がりやすいことです。そうなる前に気をつけてあげたいところですが、そもそも猫の口内炎の原因は何なのでしょうか。発症したらどのような症状が見られるのでしょうか。治療法も含め、お伝えします。
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猫の口内炎とは?
口内炎とは、歯ぐき(歯肉)や舌、口の中の粘膜などに炎症や潰瘍ができる疾患です。猫の口内炎では炎症部位に口腔尾側(喉に近い部位)が含まれるかどうかで2つに大別されます。
① 尾側に炎症を伴わない場合は、一般的に「口内炎」と認識されているもので、歯周病による歯茎の炎症やウイルス感染による舌の潰瘍などが含まれます。発生率は報告によりばらつきがありますが26%程度と報告されているものがあります。
②尾側に炎症を伴う場合は「慢性歯肉口内炎」と呼ばれ、喉に近い部分の粘膜に左右対称に炎症がみられます。一般的には慢性歯肉口内炎は痛みがより重度で生活の質を大きく低下させると言われています。発生率はこちらも報告によってまちまちですが0.7~7.1%とされています。難治性口内炎と表現されることもあります。
口内炎が重度になると、出血や激しい痛みをともなうため、ご飯を食べたいのに食べれない・本能的な行動であるグルーミング(毛づくろい)ができないなど愛猫にとって非常に大きなストレスになる可能性があります。
猫の口内炎の症状
猫が口内炎になると、以下の症状が現れる場合があります。猫の様子が気になる場合は、普段と比べて異変がないか細かくチェックしてみてください。
口臭
猫が口内炎になると、濃いネバネバした唾液をともなう口臭が生じます。たとえば、猫に舐められたあとや、猫があくびをしたあとなどに臭いを感じる場合があります。猫は毛づくろいをする生き物であるため、場合によっては口の臭いが全身についてしまうこともあるでしょう。
食欲低下や脱水
猫は、口内に違和感があると食欲低下が起きたり、脱水状態になったりすることがあります。とくに口内炎によって口の中に痛みがあると、食べるのを嫌がってしまいます。そのため、フードから水分摂取が難しくなり、脱水になることもあるでしょう。
よだれが多く出る(時に血が混じる)
口内炎によって痛みが起こると、よだれを飲み込みづらくなることがあり、口からよだれが流れ出ることがあります。
口内炎の痛みが起こると、口の周りを手でこすることで、手がよだれでベトベトになる場合もあります。また、症状が進行すると出血が起こり、血が混じったよだれが出ることもあります。
痛み
口内炎になると、口の中に炎症を引き起こし、痛みが生じる場合があります。とくに以下の様子が見られる場合、痛みを感じていることがあるため、注意深くチェックしてみてください。
- ご飯を食べたそうだけど食べない食事中に突然鳴いたり、走り出す
- 毛づくろいの頻度が減る・全くしなくなる
- 口をくちゃくちゃさせる
- 口周りを触られるのを嫌がる
猫の口内炎の原因
一般的な口内炎の原因は多岐にわたりますが、主なものとしてはウイルス感染や歯周病、慢性腎臓病や糖尿病などの内科疾患が挙げられます。
慢性歯肉口内炎の正確な原因はまだわかっていません。カリシウイルスなどのウイルスやパスツレラ属など特定の細菌の関与、口の中にいる細菌の多様性の低下、またこれらの口の中にいる微生物に対する過剰な免疫反応などによる複合的な要因が指摘されています。
感染症
ウイルス感染症にかかると、口内炎を発症する場合があります。主なウイルスとして、猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスが挙げられ、特にワクチン接種が完了していない若齢の個体で発症を認めることがあります。また、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルス感染による免疫機能の低下によっても口内炎を発症することがあります。
感染症の種類 |
概要 |
猫ヘルペスウイルス |
喉や鼻、目などに感染するウイルスの1種。極めて感染力が強く、感染した猫の鼻水や涙、唾液を介して感染が広がる場合がある。新しい猫を迎え入れたり、多頭飼育したりしていると、感染のリスクが高まる。発症すると、目の痛みや角膜に潰瘍が起こる場合がある。一度感染すると、完治させるのが難しいとされている。 |
猫カリシウイルス |
上部気道感染症。猫ヘルペスウイルス感染症と同様に猫風邪のようなもので、あらゆる猫種・年齢の猫に発症する。人や食器などを介してウイルスに感染する場合がある。発症すると、発熱や肺炎、肝炎や膵炎などを引き起こすケースがある。 |
猫免疫不全ウイルス感染症 |
別名、猫エイズと呼ばれる。猫免疫不全ウイルスに感染した猫と噛み合ったときの傷から感染する場合がある。母猫から子猫へ胎盤を通して感染するケースもある。症状は、急性期・無症候性キャリア一期・持続性全身性リンパ節症期・エイズ関連症候群期・エイズ期によって異なる。リンパ節の腫れや食欲低下、結膜炎や皮膚炎などが起こる |
猫白血病ウイルス感染症 |
口の中に病変を有する猫や、ウイルスに感染している猫との噛み合いによって発症する場合がある。発症すると、発熱や貧血、リンパ節の腫れや食欲減退などの症状が現れる。数年経過すると、白血病やリンパ腫などの腫瘍性疾患を発症するケースもある。 |
内科疾患(慢性腎臓病、糖尿病など)
内科的疾患により、体内での健康維持に関わるメカニズムが障害されることで、症状として口内炎が認められることがあります。代表的な疾患としては、慢性腎臓病と糖尿病が挙げられます。
原因となる疾患 |
概要 |
腎臓病 |
慢性腎臓病では本来尿中に排泄されるべき毒素や老廃物がうまく排出されず血液中にとどまることがあります。その老廃物の中に口内炎や胃炎の原因となる物質が含まれていることで発症することがあります。 |
糖尿病 |
糖尿病になると、口の中が乾きやすく、唾液の分泌が少なくなることで歯周組織の環境が破壊され、歯周病菌などの増殖が起こりやすくなることで口内炎になりやすいと考えられています。 |
歯周病
歯周病は、歯の周りにたまった歯垢や歯石の周辺の細菌によって歯肉(歯ぐき)やその周辺に炎症を引き起こす疾患です。歯周病は広義に捉えると口内炎に含まれます。3歳以上の猫では80%に歯周病の徴候が認められたとの報告もあることから、多くの猫が口内炎を発症する可能性を持っていると考えられます。
猫の口内炎は自然に治る?治療方法・治療費
猫の口内炎は一般的なタイプで軽症であれば少数の例で自然に治癒することがあります。軽症かどうかの判断で最も重要なのは痛みによる食欲への影響の有無です。痛みで食事摂取量が減っている場合や摂取に時間がかかっている場合は様子を見ず病院で早めに治療を受けましょう。
おもな治療法や費用を知り、すぐに対処できるようにしておきましょう。
薬の投与
口内炎を治療するために、進行状況に応じておもに以下の薬を投与する場合があります。
薬の種類 |
概要 |
抗生剤 |
歯周病の原因になる細菌を抑制し、炎症を改善させるために使用する。猫の状態を見ながら長期的に使用するケースがある。 |
ステロイド |
強い炎症反応が見られる場合に使用することがあります。長期的に多量使用すると、糖尿病などの疾患を併発するリスクがある。また、難治性のケースで最終的に抜歯などの外科処置をすることになった場合、ステロイドの使用有無でその後の改善に影響する可能性も報告されています。 |
免疫抑制剤 |
過剰な免疫反応の関与が疑われる場合に使用されます。効果が得られるまでに時間を要するため、使用開始時はステロイドと併用することがあります。歯を抜歯後に炎症が治まらない場合にも使用することがあります。 |
インターフェロン製剤 |
歯肉炎治療用のお薬であるインターフェロンを使用することで、口の中の粘膜における免疫増強や抗菌作用、抗炎症作用が期待できることがあります。 |
治療費は、使用する薬剤の種類によりかなり変わります。月に数千円〜数万円程度とされています。
歯石の除去
口内炎の原因が歯石や歯垢の蓄積等、口の中の衛生環境の悪化と考えられる場合は、歯石や垢の除去を実施することがあります。猫の歯石を除去する場合、全身麻酔が必要です。
いったん歯石を除去してもしても、歯磨きなどのデンタルケアを実施しなければすぐに歯垢・歯石が歯に付着してしまうため、自宅でのデンタルケアを徹底していきましょう。
歯石除去の費用は、5〜6万円程度が多いようですが、施術前のレントゲン検査などを含めると、10万円程度もしくはそれ以上になる場合もあります。
外科治療(抜歯)
猫の口内炎において、他の治療法への反応が良好でない場合、特に慢性歯肉口内炎のケースでは外科治療として抜歯を実施する場合があります。抜歯の術式には以下の3通りがあります。
外科治療の方法 |
概要 |
全臼歯抜歯 |
猫の口内炎を治療する際におこなう一般的な方法です。すべての奥歯(臼歯)を抜歯し、臼歯口の中の細菌をできる限り取り除き、炎症を抑えることを目的とします。慢性歯肉口内炎における治癒率は60%程度と報告されています。 |
全抜歯 |
炎症が口の中全域にわたり認められるような症状がひどい口内炎の場合、全抜歯をおこなうことがあります。炎症が起きている歯をすべて除去することで症状を改善させることを目的とする。慢性歯肉口内炎における治癒率は80~95%程度と報告されています。 |
部分的な抜歯 |
猫の年齢や状態によって全抜歯が困難な場合、短時間の麻酔をかけて部分的に抜歯をおこなったり、歯石を取ったりすることがある。治癒率に関するデータは不明ですが、他の方法より低いと考えられます。改善が認められた報告もあるとされています。 |
抜歯にかかる費用としては、1本あたり3,000〜1万円程度です。歯を抜く本数によっては10万円を超えるケースもあります。
猫の口内炎は予防できる?
猫の一般的な口内炎は以下の方法を実践することで予防できる可能性があります。ただし、慢性歯肉口内炎に関してはその原因がわかっていないことから予防法は確立されていないため、一般的な口腔内の衛生環境管理を適用することになります。
混合ワクチンの接種
口内炎の原因となる猫白血病ウイルスや猫カリシウイルスを予防することが重要です。とくに他の猫と接触する機会が多い場合は、ワクチン接種をする必要があります。ワクチンにはメーカーの違いなどいくつか種類があります。どのワクチンを接種すべきかを獣医師とよく相談して決めましょう。
適切な歯磨き
猫が口内炎になる可能性を少しでも下げるために、以下のような手順で適切な歯磨きを実施できるようにトレーニングをおこない、予防に努めましょう。
口内炎予防になる歯磨きのステップ |
概要 |
歯磨きステップ1 |
まずは猫の口の周りを触り、触れられることに慣れさせる。できればリラックスしている状態でおこない、優しく声をかけながら取り組む。おとなしくなったら、ご褒美におやつをあげるといい。 |
歯磨きステップ2 |
口の中に指を入れ、歯の表面を触る。このとき、美味しいフードやおやつを指につけて触るといい。歯の表面や歯肉を触りながら、歯垢を取っていくことが重要。 |
歯磨きステップ3 |
指にガーゼを巻いた状態で水やぬるま湯、歯磨き粉をつけて優しくマッサージする。1本1本を丁寧にガーゼで触っていく。 |
歯磨きステップ4 |
水やぬるま湯、歯磨き粉をつけた歯ブラシを使用し、優しく歯の表面を磨く。猫が慣れてきたら、前後に歯ブラシを動かしたり、歯の表面に対して45度に傾けた状態で磨いたりする。歯周ポケットもあわせて磨くといい。 |
歯磨きの頻度としては、できれば1日に1回が理想的です。難しければ少なくとも3日に1回の頻度で歯磨きしましょう。
デンタルグッズの活用
デンタルケアとして歯磨きは重要ですが、どうしても受け入れてくれないケースも出てくるかもしれません。その場合は、猫用のデンタルグッズを活用することで、ケアをしやすくなります。たとえば、綿棒を使うと、歯肉への刺激を少なくしながら歯垢が除去できます。奥歯にも届きやすいため、初心者にはおすすめです。歯磨き粉をつけて歯の根元の歯垢が蓄積しやすい箇所もしっかりケアしましょう。
また、指に巻く猫用の歯磨きシートもおすすめです。歯磨き剤がすでに染み込ませてあるタイプの場合、手軽に歯磨きがしやすくなります。歯ブラシと異なり、力加減の調整がしやすいのもメリットです。
歯磨きがなかなかできない場合は、猫用の歯噛みガムを活用しましょう。ガムを噛むだけで、歯垢が除去できます。日々のおやつなどと一緒に取り入れるとスムーズです。また、歯磨きできるおもちゃも併用すると楽しみながらケアができるため、使いやすいといえます。
口腔内の環境を健康に維持する目的でサプリメントを使用することもあります。口腔内には腸内と同じように口腔内の環境を維持するために様々な細菌が存在しています。この細菌のバランスを維持するためにサプリメントを日常的に使用することもあります。
猫が口内炎になってしまったら?
猫が口内炎になった場合、口臭や食欲低下、よだれや痛みが生じることがあります。様子を見て、異変を感じたら、動物病院を受診してください。
猫の口内炎の状態によって、薬の投与や歯石の除去、外科治療などを受ける必要があります。獣医師と相談しながら、適切な治療を受けましょう。
猫が口内炎になると、日常生活に支障が出ます。大事な猫と健康的な日々を送るために、ワクチン接種を受けたり、適切な歯磨きを心がけましょう。デンタルグッズを上手に活用するとケアが継続しやすくなるため、おすすめです。
- 監修者プロフィール
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岩谷 直(イワタニ ナオ)
経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許