犬の耳掃除はどうすればいい?頻度や正しいやり方、NG行為など獣医師が解説

2024.12.16
犬の耳掃除はどうすればいい?頻度や正しいやり方、NG行為など獣医師が解説
「犬の耳掃除はやるべき?」犬の耳垢が気になり始めた飼い主さんの中には、このような疑問を感じる方がいるのではないでしょうか。犬の耳垢がたまりすぎると、耳のトラブルに発展する可能性があるため、必要に応じた適切なケアが求められます。本記事では、犬の耳掃除の必要性や頻度・やり方、耳垢を活用した健康チェックの方法などを解説します。愛犬が毎日を元気に過ごせるよう、正しい方法で耳垢をケアしていきましょう。
目次

 

犬の耳掃除は必要?

基本的には汚れや外耳炎などのトラブルがなければ耳掃除は必要ありません。というのも健康な耳には脂分を分泌することで汚れを奥から外に排出する自浄作用が備わっているからです。この自浄作用を無視した耳掃除は逆に外耳炎の原因になってしまう可能性があります。外耳炎などのケア以外での耳掃除は自浄作用によって外に出てきた汚れを優しく拭きとるくらいで大丈夫です。

外耳炎とは、外耳(耳の入口から鼓膜までの部分)に起こる炎症です。炎症が起こると、耳垢の量が増えたり、かゆみが出たりします。重症化すると、強い痛みや臭いが出るようになります。

 

外耳炎にかかりやすい犬種としては、以下のとおりです。

  • 外耳道に毛が多く生えている犬種:トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、テリアなど
  • 垂れ耳の犬種:ダックスフンド、コッカー・スパニエル、レトリーバー種など
  • 耳の分泌腺異常が報告されている犬種:アメリカン・コッカー・スパニエル
  • 耳道が狭い犬種:フレンチ・ブルドッグ、パグ
  • アトピー性皮膚炎になりやすい犬種:柴犬、シー・ズー

軽度の外耳炎の場合は、点耳薬や内服薬を活用することで、1週間程度で治療できます。一方で強い炎症が長期間にわたり慢性化した場合は、耳道が塞がってしまうことがあるため最終的に手術が必要になることもあります。


大事な愛犬が耳の炎症を起こし、健康を損なわないよう、日常的な耳のチェックと必要に応じて耳掃除を実施することを心がけることが重要です。また、外耳炎などのトラブルで自宅での耳掃除が必要な時は必ず獣医師の指示に従い、適切な頻度や方法で実施するようにしましょう。

 

犬の耳掃除の適切な頻度は?

犬の耳掃除の適切な頻度は?

犬の耳掃除の頻度は汚れの程度などにより様々です。まずは耳の汚れがないか日常的~週1回程度チェックするようにし、汚れがある場合は軽く拭き取るのがおすすめです。「夜寝る前」や「お散歩のあと」といったようにタイミングを決め、汚れのチェックを習慣化してください。耳をチェックした時に、汚れの量が非常に多い場合や後述の「耳垢の種類でわかる犬の健康状態」の項目で書かれているような症状がみられる場合は、自分で判断しないで一度獣医師に相談することも検討しましょう。


耳垢は、犬種によってたまり具合が異なります。たとえば、通気性の悪い垂れ耳の犬、皮脂の分泌が過剰な犬などは、耳の中に汚れがたまりやすくなります。とくに耳垢がたまりやすいとされる犬種は以下のとおりです。

  • パグ
  • フレンチ・ブルドッグ
  • シー・ズー
  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
  • アメリカン・コッカー・スパニエル
  • トイ・プードル
  • ゴールデン・レトリーバー
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ミニチュア・ダックスフンド

上記の他にもアレルギーなどの皮膚トラブルが多い柴犬や、耳毛の多いミニチュアシュナウザーなども汚れが目立ちやすくなります。


一方で、通気性が良い立ち耳の犬種の場合は、汚れがたまりにくいのが特徴です。耳の中をチェックし、さほど汚れが目立たなければ無理に耳掃除する必要はありません。

 

犬の耳掃除の正しいやり方

犬の耳掃除の正しいやり方

犬の耳掃除をする際は、正しい順序で進めることが大切です。耳掃除を初めてする場合は、犬に耳を触られることに慣れてもらったうえでケアすることが求められます。焦らず、ゆっくり丁寧に以下の手順で耳掃除をしましょう。軽度な汚れのケアは1~3の手順だけで十分です。外耳炎などのトラブルで自宅での耳掃除を獣医師から指示された場合は、1~8の手順を実践するとよい場合もあります。鼓膜への影響など注意する必要がありますので、必ず獣医師の指示に従った方法で実施しましょう。耳掃除に洗浄液を使用する場合は必ず動物用の耳洗浄液を使用してください。


手順

概要

1.耳洗浄液をコットンに染み込ませる

耳洗浄液を数枚のコットンに染み込ませる。あらかじめ耳洗浄液を人肌程度に温めると犬が受け入れやすくなる。

2.毛の流れにそって耳の内側を優しく拭く

コットンを耳に優しく当て、汚れをなじませてから拭き取る。ご褒美を与えながらやるのがおすすめ。

3.耳の穴まわりを優しく拭く

コットンに汚れがつかなくなるまで耳の穴まわりを拭く。終わったらご褒美を与える。

4.耳洗浄液を入れるために保定(犬が動かないように)する

犬の背後からゆっくり下顎をつかみ、顔が動かないよう保定する。

5.直接もしくはコットンに染み込ませた耳洗浄液を軽く絞りながら耳の中に入れる

耳の穴から液面が見える程度の量をできるだけたっぷり入れる。

6.耳を優しくマッサージする

耳のつけ根を中心に、力を抜いた状態でゆっくりマッサージする。

7.犬が頭をブルブルと振るまで待つ

(予め、洗浄液をティッシュなどである程度吸い取るのもOK)

頭を振り、耳の中の洗浄液と汚れが出てくるのを確認する。犬がなかなか頭を振らない場合は、耳に息を吹きかけると振ってくれることが多い。

8.耳の中の洗浄液と汚れを拭き取る

最後の仕上げとして、耳の中の洗浄液や汚れを取り除く。


耳垢が多い場合は、汚れが飛び散っても問題ないお風呂場などを活用すると良いです。

 

 犬の耳掃除でやってはいけない行為

犬の耳掃除でやってはいけない行為

犬の耳掃除を行う際に重要なポイントは、間違った方法でケアしないことです。誤った方法で掃除をすると、病気や怪我につながるリスクがあります。ケアをする際は、獣医師に確認することはもちろん、以下の禁止事項に注意しましょう。

綿棒や耳かきを使う

綿棒や耳かきを使用して耳掃除をすると、耳の中が傷つく原因になるため、使用してはいけません。場合によっては、綿棒や耳かきによって耳垢が奥まで入り込んでしまい、外耳道を刺激して炎症を起こすケースもあります。

もし外耳道に炎症が見られたり、耳の奥にある耳垢が気になったりする場合は自宅でのケアは避け、動物病院を受診しましょう。獣医師に耳の中を確認してもらい、根本的な治療を受ける必要があります。

消毒液やウェットティッシュを使う

消毒液やウェットティッシュにはアルコールが含まれており、消毒作用が強すぎるため、耳の皮膚に悪影響を及ぼす可能性があります。皮膚を保護する常在菌がいなくなる、アレルギー反応が生じるなど皮膚トラブルの原因になるので、注意が必要です。

ウェットティッシュには洗浄剤や防腐剤といった成分も含まれており、犬の安全性を考慮すると好ましくないため、使用を控えてください。動物用に開発された目的に応じた製品を使用するようにしましょう。

過度に掃除する

犬の耳の中を過度に掃除しすぎると、皮膚のバリア機能が弱まり、外耳炎などのトラブルに発展します。とくに以下のような掃除を避けるようにしましょう。

過度な掃除の具体例

概要

耳の奥まで細かく耳掃除をする

耳の奥にある耳垢を取ろうとすると、かえって耳垢を押し込んでしまい、耳トラブルに発展するケースがある。

耳毛を抜く

耳毛は外からの汚れの侵入を防ぐ役割があるため、取り除くとかえって汚れがたまる可能性がある。耳の通気性を良くするために耳毛を抜く必要がある場合は、獣医師あるいはプロのグルーマーに任せる。

慢性の炎症がある状態で液体洗浄液を耳の中に注ぐ

慢性の炎症がある場合、液体洗浄液を耳の中に直接入れると、耳トラブルに発展するケースがある。獣医師の指示がない限り独断で行うのは避けましょう。

頻回に耳掃除をする

犬の耳には自浄作用(汚れを外に出す作用)があるため、頻回に耳掃除しなくてもいい。頻繁に耳掃除すると、かえって耳を傷つけてしまい、炎症の原因になる。どうしても汚れが気になる場合は軽く拭く程度にとどめる。

 

 

犬が耳掃除を嫌がる場合の対処法

犬が耳掃除を嫌がる場合の対処法

犬の耳掃除は、シンプルな作業ではあるものの、実際にやってみるとうまくいかないケースがあります。とくに犬が耳掃除を嫌がると、なかなかスムーズに進まない場合があります。このような場合は、以下の対処法を実践してみてください。


犬が耳掃除を嫌がる場合の対処法

具体例

耳を触られることに慣れさせる

犬は耳に触られることに慣れていないと、嫌がる傾向がある。いきなり耳を触るのではなく、スキンシップをしながら少しずつ触り、慣れさせることが重要。顔周りを触る際に、一緒に耳を触るといった工夫をするといい。

おもちゃ・おやつを与えながら耳掃除する

犬におもちゃ・おやつを与え、夢中になっている隙に耳掃除をするのも一つの手段。また、耳掃除を終えたあとにご褒美としておやつを与える方法も効果的。

耳洗浄液を温める

急に冷たい耳洗浄液を入れられると犬がびっくりしてしまい、嫌がるケースがあるため、体温と同じ程度に温めたうえで入れると効果的。

プロに対応してもらう

あまりに耳掃除を嫌がる場合は、無理をせずに動物病院やトリミングサロンに任せる。手順ややり方を教わり、コツをつかむのもおすすめ。

 

 

耳垢の種類でわかる犬の健康状態

耳垢の種類でわかる犬の健康状態

 犬の耳掃除をするときに大切なのは、耳垢の状態を確認することです。耳垢の様子をチェックすることで、健康状態が把握しやすくなります。耳掃除をする際は、あらかじめ次のポイントを押さえたうえで取り組みましょう。

正常な耳垢の色や臭い

正常な耳垢の場合、黄色っぽい色味であり、ねばつきや臭いもほとんどありません。もともと耳垢には殺菌作用があり、耳の皮膚を守る役割があります。そのため、異常がなく耳垢がそれほどたまっていない場合は、基本的に掃除をする必要はないでしょう。

耳垢が黒っぽくて異臭がする場合

耳垢に異臭がある場合は、細菌性外耳炎やマラセチア性外耳炎にかかっている場合があり、耳垢が黒っぽく、異臭がする場合は、マラセチア性外耳炎にかかっている可能性があります。それぞれの疾患の特徴は以下のとおりです。


耳垢が黒っぽくて異臭がする場合に起こる疾患

症状

原因

治療法

細菌性外耳炎

腐ったような悪臭を放ち、耳垢が増加する。耳が赤く腫れ上がり、膿や血液が出ることもある。重症化すると、平衡感覚が乱る、聴力に問題が生じるなどの可能性がある。

異物の侵入や内分泌疾患、アレルギーなど。

軽度の場合は、洗浄するだけで改善することもある。重度の場合は、麻酔をかけて耳の奥を洗浄するケースもある。状態によって、ステロイド剤や点耳薬を活用する。

マラセチア性外耳炎

甘酸っぱい臭いを放ち、耳が赤く腫れたり、かさぶたのようなものが見られることがある。頻繁に耳をかいたり、頭を振ったりするようになるのも特徴。

免疫力低下や内分泌疾患、アレルギーや過剰な皮脂の分泌など。

軽度の場合は耳を清潔に維持するための洗浄液を活用し、耳垢を除去する。重度の場合は、麻酔をかけて耳の奥を洗浄するケースもある。状態によって、ステロイド剤や点耳薬を活用する。

耳垢が黄色で臭いがある場合

耳垢が黄色で臭いがある場合は、耳の中で細菌が増殖し、強い炎症を起こしている可能性があります。症状が進行すると、耳からドロっとした膿が発生し、かゆみや痛みを引き起こすのが特徴です。

耳は外耳、中耳、内耳の3つの構造に分けられますが、上記の症状が見られるのは鼓膜より外側に炎症が起こる外耳炎が最も一般的です。外耳炎が進行すると中耳炎や内耳炎に波及することがあり、内耳炎になると平衡感覚が障害され、頭が斜めに傾く斜頸(しゃけい)、一方向にぐるぐる回る旋回(せんかい)や、さらに重度になると顔面神経麻痺等の症状が起こることがあります。

外耳炎はアレルギー性疾患や寄生虫、異物、不適切な耳のケアなどが根本の原因になることが多く、細菌やマラセチア等の増殖はそれに続く二次的なものと考えられています。治療は、多くの場合耳の洗浄と抗菌剤や抗真菌剤、抗炎症剤の点耳(場合により内服のこともあります)が多いですが、慢性化して耳道が閉塞したり、中耳炎等に波及すると外科手術、アレルギーなど他の疾患が原因になっている場合は基礎疾患の治療が必要になることもあります。

耳垢が赤黒くて痒がる場合

耳垢が赤黒く、激しいかゆみがある場合は、ミミダニ症に感染している可能性があります。ミミダニ症とは、ミミヒゼンダニと呼ばれる寄生虫の感染によって引き起こされる疾患です。


ミミダニ症は、0.5mm程度のミミヒゼンダニが外耳道に寄生して起こります。

感染している場合は、足で耳元を頻繁にかく、頭を頻繁に振るなどのサインが見られます。非常に痒みが激しく、犬の睡眠を妨げ、QOLを低下させることもあります。また、耳のあたりを触られるのを嫌がったり、耳垢が増加したりするのも特徴です。


ミミダニを治療するためには、駆虫薬の使用が必要です。動物病院にて治療を受けることで完治できます。犬の場合はフィラリア予防薬にミミヒゼンダニに効果があるものもありますので、定期的にフィラリアの予防をすることで結果的にミミヒゼンダニの予防につながります。ミミダニは、まれに人にも感染し、一過性に皮膚炎を起こすことがありますが、人の耳道内に寄生することは稀と言われています。


犬は耳掃除とあわせて耳毛抜きもすべき?

犬の耳毛は、基本的に処理する必要がありません。なぜなら、耳毛には外部からの埃や汚れの侵入を防ぐ役割があるからです。


しかし、耳毛が多い場合、耳の中の通気性が悪くなり、蒸れる原因になります。蒸れた状態が続くと、外耳炎などの炎症が起こりやすくなる要因になることがあります。とくに垂れ耳の犬種では、耳の中が蒸れやすくなるのが特徴です。


また、耳掃除の際に邪魔になるケースがあり、見た目の面で気になる方もいるでしょう。その場合は、耳毛抜きを検討してください。


しかし、誤った方法で耳毛抜きをするとかえって皮膚トラブルを起こすリスクがあるため、ケアする場合は動物病院やトリミングサロンの担当者に相談することをおすすめします。

 

犬の耳掃除は正しいやり方・頻度で行う

犬の耳は、人とは異なり入り口から垂直に耳道が伸び、途中で水平になるL字型をしていることで、耳垢がたまりやすい構造になっています。奥に耳垢が貯留した状態で放置すると、外耳炎などのトラブルに発展します。重症化すると手術などの大がかりな処置を要するため、日頃から適切にケアすることが重要です。


耳のチェックを習慣化し、汚れがある場合は優しくふき取りましょう。過度な耳掃除はかえって外耳炎の原因になることがあります。

犬の耳をケアする際は、正しい方法・順序で進めることが大切です。犬が耳掃除に慣れていない場合は、慣れさせるために少しずつ触れるなどしていきましょう。おやつやおもちゃを活用するとスムーズに進めやすくなるため、おすすめです。


耳掃除をする際の重要なポイントは、耳垢の様子を見て、健康状態をチェックすることです。色や臭い、犬の様子を確認し、異変がないか見ておきましょう。いつもと様子が異なる場合は、動物病院を受診し、獣医師に相談してください。


耳掃除を自宅で行うのが難しい場合は、トリミングサロンや動物病院のプロに相談し、サポートしてもらいましょう。

 

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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