【獣医師監修】犬の腎臓病になる原因とは?予防や治療方法などについて解説

2024.11.14
【獣医師監修】犬の腎臓病になる原因とは?予防や治療方法などについて解説

犬の腎臓病は、よく見られる病気の1つです。症状として判別がしにくいことがあり、気づかないうちに悪化してしまう場合があります一方で、あらかじめ腎臓病の知識を得ておけば早期発見・早期治療につながり、生活の質を高く維持できるはずです。また腎臓病との診断を受けた後も、適切に対処できるようになります。

この記事では、老犬の腎臓病について説明しますので、しっかりと確認しておきましょう。

目次

 

犬の腎臓病の症状

犬の腎臓病の症状

犬の腎臓病の症状は、急性腎障害と慢性腎臓病かどうかで異なります。それぞれの症状を見ていく前に、まずは腎臓の機能についてその役割を把握しておきましょう。

腎臓のおもな機能 

概要 

ろ過 

腎臓に流れてきた血液はフィルターによってろ過されることで、代謝産物や毒素などの不要な老廃物が血液中から取り除かれます。 

再吸収 

フィルターを通過したものをチェックして、栄養素やミネラルなどの体に必要なものを再吸収して血管内に戻します。 

内分泌 

体内の酸素量が低下すると、赤血球を造るためにホルモンを分泌します。 

血圧が下がると、血圧を上昇させるためにホルモンを分泌します。 

 腎臓病では、上記の機能に関わる部位が障害を受けることにより症状が見られるようになります。

急性腎障害の症状

急性腎障害になると、数時間から数日の間に腎臓の機能が低下し、様々な症状が見られるようになります。初期の症状としては急激な食欲の低下、嘔吐、元気消失、場合により下痢を認めることもあります。進行すると尿量が極端に減少する乏尿(ぼうにょう)や尿が生成されない無尿、意識障害やけいれんなど積極的な治療なしでは生命維持ができない状態になり、死に至ることもあります。

慢性腎臓病の症状

慢性腎臓病は、急性腎障害と異なり、長い時間をかけて腎臓の機能が少しずつ低下していくのが特徴です。初期は無症状のことがありますが、進行の過程で末期に至る前に以下の兆候が見られるようになります。

  • 多飲多尿
  • 口臭
  • 食欲低下
  • 嘔吐
  • 貧血
  • 活動性の低下
  • 体重減少

 

犬の腎臓病のステージ

犬の腎臓病には4つのステージがあります。ステージが進むほど、症状が重くなっていきます。それぞれの段階で起こりうる症状を知っておきましょう。

ステージ1

ステージ1では、症状がほとんど起こりません。そのため、血液検査をしても異常値は見つかりません。尿検査では尿比重の低下や蛋白尿、超音波検査などの画像診断検査で腎臓の形態的な異常が認められることがあります。腎臓の機能として100〜33%残っているとされています。

ステージ2(軽度)

ステージ2でも、ほとんどのケースで元気も食欲も普通にあるため、なかなか異常に気づきにくいですが、色の薄い尿を大量にするようになり飲水量が増える多飲多尿が起きるようになります。血液検査では腎臓の数値が正常範囲からやや高値内で検出されます。腎臓の機能は33〜25%残っているとされています。

ステージ3(中等度)

ステージ3では、腎機能の低下が進行し、老廃物の尿中への排泄が出来なくなることで様々な症状が見られるようになります。老廃物の尿中への排泄が出来なくなると口内炎や胃炎の原因となり、口臭や食欲低下、嘔吐、体重減少などが見られるようになります。また、腎臓は赤血球の成熟に必要なホルモンを分泌する役割を担っているため、腎機能低下による貧血が起こることがあり活動性の低下が見られるようになります。

腎臓の機能は25〜10%残っているとされています。

ステージ4(重度)

ステージ4は、末期の状態であり、尿が極端に少ない乏尿や尿を生成できない無尿、食欲の廃絶や意識障害、重度の下痢やけいれんなど積極的な治療なしでは生命の維持が困難となります。

腎臓の機能は10%以下になるとされています。

 

犬の腎臓病の原因

犬の腎臓病の原因

急性腎障害の原因

急性腎障害のおもな原因は、原因の存在する場所により以下の3つに分けられます。

分類

原因

腎前性

全身の血液循環が悪くなり、腎臓への血流が減少することで腎機能が低下している状態。

1嘔吐や下痢などによる重度の脱水

2外科手術や外傷による出血

3高体温や低体温

4ショック状態

5重度の心機能低下

などが原因となります。

腎性

腎臓そのものが障害を受けて機能が低下している状態。

1感染症(膀胱炎の原因菌による腎盂腎炎、レプトスピラ症など)

2中毒(ブドウ・レーズン、ユリ科の植物、一部の薬剤、不凍液など

3腎臓に起こる病気(糸球体腎炎、腎腫瘍、アミロイドーシスなど))

腎後性

尿路の閉塞により排尿できないことで機能低下を引き起こす状態。

1尿石症(尿管結石、尿道結石など)

2尿路に発生する腫瘍(膀胱腫瘍など)

慢性腎臓病の原因

慢性腎臓病のおもな原因は、以下のとおりです。

慢性腎臓病の原因

疾患の概要

急性腎障害からの回復後の移行

急性腎障害が適切に治療された場合でも、腎臓が受けたダメージが完全には修復されず、慢性腎臓病の原因になることもあります。

遺伝的要因

先天的な形態的、機能的異常による場合があります。

加齢

加齢によって腎臓を構成するネフロンが傷つくと、腎臓の機能が低下し、慢性腎臓病になる場合があります。

歯周病

歯周病を引き起こす細菌が血中に入ることで全身に循環し、腎臓に到達すると腎機能を低下させる場合があります。また、腎臓病になると脱水しやすく、口内が乾燥した状態になりやすいことから歯周病菌が増殖しやすく悪循環になりやすいとも言われています。


犬の腎臓病の注意点

犬の腎臓病における注意点を解説します。急性腎障害と慢性腎臓病に関して、以下の内容を押さえておきましょう。

急性腎障害の注意点

急性腎障害の場合、数時間から数日の間に急激な腎臓の傷害が起こりますが、回復が見込めるため、様子がおかしいときは速やかに動物病院を受診しましょう。特に中毒の原因となる対象物の摂取は、対応が早ければ腎臓へのダメージを回避できる可能性もあります。

慢性腎臓病の注意点

慢性腎臓病は、緩やかに進行することもあり、初期段階では、症状も認められず血液検査でも異常が検出されないことがあります。ただし、血液検査で正常範囲内であっても上昇傾向が認められる場合はステージ1と診断されることがあります。定期的に動物病院を受診することで数値の変化をこまめにチェックすることが早期発見のポイントになるかもしれません。尿の色調や量、飲水量も日常的に観察して変化に早く気付けるようにしましょう。


犬の腎臓病の治療方法・治療費

犬の腎臓病の治療方法・治療費

犬の腎臓病に関する治療方法や費用について解説します。もし飼っている愛犬が腎臓病と診断された場合は、獣医師の指示に従い、以下の治療を検討しましょう。

急性腎障害の場合

急性腎障害の治療では上述した腎機能の低下の原因を取り除き、出来るだけ早く尿を体外へ排出させることが最も重要となります。

急性腎障害により脱水状態が続くと、腎臓への血流量が不足し、傷害された腎臓の細胞がより破壊されるため、体内の水分を増やし、腎臓への血流量を確保するために点滴を実施します。点滴で水分を補うには時間もかかるため入院が必要になり、十分な排尿が確認できるまでは利尿剤等を併用しながら点滴を継続します。

点滴治療に効果がない場合や重度の急性腎障害によって尿が生成されない場合は、腹膜透析や血液透析が必要です。透析は、尿で排泄されるべき老廃物を体中から除去する目的で実施されます。腹膜透析や血液透析ができる動物病院は限られているので、獣医師とよく相談しましょう。治療費用としては、検査の種類や入院日数などにもよりますが、5〜20万円程度あるいはそれ以上かかるとされています。

慢性腎臓病の場合

慢性腎臓病の治療はステージに応じて治療方針を立てます。

早期のステージでは、慢性腎臓病の進行を遅くするため、そして腎不全が生じた段階では症状の軽減、QOLの向上を主な目的として治療していきます。

食事療法

慢性腎臓病では、たんぱく質とリン、ナトリウムの制限が重要になります。また、オメガ3脂肪酸は腎臓の血液の流れを改善することに役立ちます。各ペットフードメーカーから適切に設計された療法食が販売されていますので、獣医師の指示に従って、適切なフードを与えましょう。

進行したステージでは、療法食のみでリンの濃度を抑えることが難しくなるため、リンを吸着するサプリメントを与えることも有効です。

薬物療法

ステージ1や2の早期のステージで高血圧やたんぱく尿が認められる場合は、それらをコントロールするお薬(降圧剤など)を使用します。

ステージ3や4では、認められる症状に対して対症的にお薬を使用します。例えば、食欲がない場合は食欲増進剤、嘔吐をする場合は吐き気止め、貧血がみられる場合は造血ホルモンや鉄剤を投与します。

輸液療法

慢性腎臓病の早期ステージでは食欲も認められることが多く、食事への水分の補充やウェットフードの使用などで水分補給は可能なことが多いですが、ステージの進行に伴い食欲がないことや嘔吐のために、脱水症状が起こりやすくなります。そのため必要に応じて点滴で水分を補う必要があります。

慢性腎臓病の治療費用としては、検査の種類や入院日数などにもよりますが、3万円程度、あるいはそれ以上とされています。

 

犬の腎臓病は予防できる?

犬の腎臓病の治療方法・治療費

犬の腎臓病の予防に関しては、急性腎障害に関しては対策可能なものもありますが、慢性腎臓病に関しては本当の意味での予防法はなく、より早期に発見し、対応していくことが重要です。

腎臓毒性物質は犬の生活範囲に置かない

人用の薬や保冷剤は犬の届くところに置かない、ブドウやレーズンを与えない、ユリ科の植物には近付けない等、日常的に十分注意し、誤って摂取することがないようにしましょう。

また、毒性物質ではありませんが、レプトスピラの感染にも気を付ける必要があります。レプトスピラはネズミの尿を介して感染します。主に西日本での発生が報告されていますが、近年では徐々に東日本でも発生が報告されるようになってきています。山や水辺などのネズミが多い場所には頻繁に行かない、もしくは環境上避けることが難しい場合はワクチンがありますので接種について獣医師に相談しましょう。

飲み水を新鮮に保つ

犬に新鮮な水を飲んでもらえるよう、頻繁に交換しておきましょう。排尿をしやすい環境も整えてあげてください。

また、水が飲める場所を複数準備することも大切です。可能であれば、犬が移動する場所を踏まえ、水飲み場を確保することをおすすめします。犬と散歩をする際は、携帯型の給水器を常備しておくことも重要です。特に夏場に起こりやすい熱中症は、高体温と脱水を引き起こし、急性腎障害を引き起こすこともあるため十分な水分が摂取できるように準備が必要です。

定期的に健康診断を受ける

犬の健康状態を維持し、腎臓病などの疾患を防止するためには、定期的に健康診断を受けることが大切です。目に見える異常がなくても定期的に血液検査や尿検査を受けることが早期発見につながります。シニア期以降は毎年必ず受けましょう。

目安として、年2回の頻度で健康診断を受診し、体の異常が起きていないかをチェックしておきましょう。


愛犬がもし腎臓病になってしまったら?

大事な愛犬が腎臓病になった場合は、獣医師の指示に従って適切な治療を受けましょう。慢性腎臓病の場合、ステージによって、治療法が異なります。根気強く治療と向き合い、出来るだけ長く良好なQOLを維持することを目指しましょう。


本質的な腎臓病の予防方法はありませんが、日常的な対策としては、毒物摂取の可能性を排除し、飲水環境を整えましょう。また、表面的には異常が認められなくても定期的に健康診断を受診し、病気の早期発見・早期治療を心がけましょう。

大切な愛犬がいつまでも健康にいられるよう、日々の生活において実践できることを取り組んでいきましょう。

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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