【獣医師監修】犬の肥満の見分け方!適正体重や肥満度のチェック基準

2024.12.23
【獣医師監修】犬の肥満の見分け方!適正体重や肥満度のチェック基準

愛犬の体型が気になったことはありませんか?犬の肥満は健康に深刻な影響を与える可能性がありますが、適切なチェック方法を知ることで早期の対処が可能です。本記事では、犬の適正体重を知るためのボディ・コンディション・スコア(BCS)の活用法や、肥満の原因、効果的な予防と改善策について詳しく解説します。

目次

 

犬の肥満度チェック!見分け方や適正体重

犬の肥満度チェック!見分け方や適正体重

適正な体重を知るためには、犬のボディ・コンディション・スコア(BCS)をチェックすることが役立ちます。BCSは、犬の体型を5段階(または9段階)に分けて評価する方法です。BCSの評価基準と特徴は下記のとおりです。

肥満度

見た目の変化(判断基準)

BCS1
痩せ

  • 肋骨や腰椎、骨盤が明確に見えている
  • 触っても脂肪を感じることができない
  • 腰のくびれと腹部の吊り上がりが顕著

BCS2
やや痩せ

  • 肋骨に簡単に触れることができる
  • 上から見たときに腰のくびれが顕著
  • 腹部の吊り上がりが明瞭

BCS3
理想体重

  • 過剰に脂肪がついておらず、肋骨に触れることができる
  • 上から見た際に肋骨の後ろに腰のくびれがある
  • 横から見たときに腹部の吊り上がりがある

BCS4
やや肥満

  • 脂肪はやや多いものの肋骨に触れることができる
  • 上から見た際に腰のくびれは見られるが、顕著ではない
  • 腹部の吊り上がりが少し見られる

BCS5
肥満

  • 厚い脂肪におおわれており、肋骨に簡単に触れることができない
  • 腰椎や腰根部にも脂肪がついている
  • 腰のくびれはない、またはほとんど見られない
  • 腹部が垂れ下がっている

出典:環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~」

BCSが「3 (理想体重)」を外れている場合には、獣医師と相談のうえで適切な食事や運動を取り入れて改善を目指しましょう。

 

犬が太る・肥満になる原因

犬が太る・肥満になる原因

犬が太る・肥満になる原因には、食事や運動不足、生活習慣、去勢や避妊手術の影響などが挙げられます。具体的な原因とその影響について詳しく解説します。

食事

犬が肥満になる大きな原因のひとつは食事です。1日の食事の回数が多い、1回の食事量が多いなど、食事に関する問題が原因でカロリーを過剰に摂取すると、脂肪が蓄積されてしまいます。ドッグフードには1日に与える食事量が体重別に記載されていますが、体重は理想体重(目標体重)に該当する量を与えます。現在の体重が理想体重と大きく異なる場合は理想体重に合わせた量を与えると、急激な体重変化となり体に負担がかかることがありますので、獣医師にご相談ください。また、記載されている量は目安です。犬にも個体差がありますので、体重測定をしながら、愛犬にとって適切な量を見極めていきましょう。

また、人間の食べ物を日常的に与えることも要因です。人の食事は犬にとって栄養バランスが偏りやすく、不要なカロリーを摂取してしまうことが多いため、肥満につながるリスクが高い行為です。

おやつ

おやつの与えすぎも太る原因です。高カロリーなおやつばかりを与えたり、与える頻度が多すぎたりすると、摂取カロリーが必要量を大きく上回ることがあります。また、ご家族と一緒に住まれている場合、自分はあまりおやつを与えていないと思っていても、他のご家族の方がおやつを与えており、結果的にカロリー過多になっているケースも少なくありません。普段の食餌におやつを追加で与える場合は、その分、食事量を控えないといけません。食事から必要な栄養素を摂取していますので、おやつはほどほどにして、食事からの栄養素の摂取を妨げないようにしましょう。一般的に、おやつの量は、1日に摂取するカロリーの2割まで、と言われています。おやつで1日のカロリーを2割摂取するのであれば、食事から摂取するカロリーは8割にします。

運動不足

犬が運動不足になると、消費カロリーが減少し、肥満のリスクが高まります。特に、散歩の時間が短かったり、回数が少なかったりして運動不足になると、筋肉量が減少してエネルギー代謝が低下し、太りやすくなります。

室内で飼われている犬は運動量が少ない傾向があるため、飼い主が積極的に運動を促すことが重要です。

去勢・避妊手術

去勢や避妊手術を行うと、犬は肥満になりやすくなることがあります。手術によってホルモンバランスが変化し、代謝が低下するため、エネルギー消費量が減少することが主な原因です。また、食欲が増加するケースもあり、適切な管理を怠ると体重が増えやすくなります。

去勢や避妊手術そのものは決して悪いことではありません。ただし、犬の健康を守るためにも、手術後は、体重が増えやすい体質になったことを理解し、これまで以上に食事量や運動量に気を配り、体重管理を行うことが大切です。



病気による肥満もあるの?

病気による肥満もあるの?

犬は、病気が原因で肥満になる場合もあるため、単なる食べすぎや運動不足と自己判断しないことが大切です。また、実際には肥満ではなく、お腹に水がたまる腹水貯留など肥満に見える症状が現れる場合もあります。

食事を変えていないのに急激に太った場合や、体調不良が見られる場合には特に注意が必要です。犬の肥満の一因となる病気について詳しく見ていきましょう。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、体内でコルチゾールと呼ばれるホルモンが過剰に分泌されることでさまざまな症状が現れる状態を総称的に指すものです。

自然発生型と医原性の2つのタイプがあります。自然発生型では、副腎や下垂体に腫瘍ができることでホルモンの過剰分泌が生じます。一方、医原性は、副腎皮質ホルモン(ステロイド)の長期投与による過剰が原因で起こります。

主な症状は、水を飲む量やおしっこの量が増える「多飲多尿」や急激な食欲の増加です。また、ビール腹のようにお腹が膨れる「ポットベリー」という症状もあり、急激に太ったように見えます。また、皮膚が薄くなったり、痒みのない左右対称の脱毛が見られることもあります。老化や単なる肥満と誤認しがちなため、自己判断しないよう注意が必要です。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足することにより、代謝が低下して全身にさまざまな影響を及ぼす病気です。

甲状腺ホルモンは代謝を活性化する役割を担っているため、不足すると食事量が過剰でなくとも体重が増加しやすくなり、肥満となることがあります。

また、以下のような症状も現れます。

  • 元気がなくなる・動きが鈍くなる
  • 歩く・立ち上がるのを嫌がる
  • 体温調節の異常(低体温)
  • 心拍数が遅くなる
  •  神経症状(ふらつき、顔面神経の麻痺、刺激しないと起きない(嗜眠:しみん)))
  •  皮膚症状(脱毛、皮膚が脂っぽくなる、フケが増える、皮膚が黒くなる(色素沈着)))

血液検査によって甲状腺ホルモン値を確認し、適切な治療を行うことで症状を改善できる可能性があります。

肝臓疾患

肝機能に異常が生じ機能が低下するアルブミンと呼ばれるタンパク質の合成が低下することがあります。アルブミンは血管内に水分を維持するのに非常に重要なため、肝機能の低下により合成量が低下すると血管内の水分がお腹の中にたまっていく「腹水(ふくすい)」という症状がみられる事があります。、

腹水がたまった状態では、お腹が膨らむため肥満のように見えることもあるかもしれませんが、肝臓疾患で腹水がたまっている場合は一種の栄養障害の状態ですので、お腹以外の他の部位は全体的に痩せ気味になっていることがあります。また、食欲低下や元気がない、目や皮膚が黄色くなる「黄疸」等の症状が出ていることがあります。その場合はすぐに動物病院を受診しましょう。

循環器疾患

循環器疾患の中でも血液循環の異常が起きるものは、体内に水分が溜まることで、腹水やむくみを引き起こすのが特徴です。これにより、外見上肥満と見間違えられる場合があります。

全身を循環した血液は右側の心臓の右心室(うしんしつ)に帰ってきます。右心室の血液は二酸化炭素を除去して新たに酸素を受け取るために肺へ送られます。循環器の異常により肺への血液の流れに異常が生じ、上手く流れなくなると、全身から帰ってくる血液の渋滞が生じます。渋滞中に全身の血管から水分が漏れ出すことでむくみやお腹に水がたまる腹水がみられる事があります。

腹水がたまった状態では、お腹が膨らむため肥満のように見えることもあるかもしれませんが、循環器疾患で腹水がたまる場合は既に心臓の機能がある程度低下している可能性がありますので、呼吸が苦しそう、運動を嫌がる、元気がないなどの症状がないか確認しましょう。症状が見られる場合には、早急に動物病院を受診して詳細な検査を受けましょう。

 

犬の肥満が一因の病気リスク

犬の肥満が進行すると、健康にさまざまなリスクが生じるため、早めの対策が必要です。体重の増加は関節や脚に大きな負担をかけ、椎間板ヘルニアや関節炎などの関節疾患を引き起こしやすくします。

また、過剰な脂肪の蓄積は気管を圧迫し、呼吸がスムーズに行えなくなる場合があります。特に運動時や興奮時には症状が悪化する恐れがあるでしょう。また、熱中症にもなりやすくなります。

さらに、肥満は内臓への影響も大きく、高脂血症、循環器疾患などの生活習慣病のリスクを高めます。

肥満は見た目だけの問題ではなく、犬の全身の健康に深刻な影響を与えるため、日頃から体重を管理し、適切な食事と運動を取り入れることが重要です。

 

犬の肥満を解消する方法

犬の肥満を解消する方法

犬が肥満になると健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性がありますが、適切な方法で対処すれば健康的な体型を取り戻すことが可能です。ここでは、肥満解消のために重要なポイントについて解説します。

食事内容を見直す

肥満を改善するための基本は、食事管理です。まず、現在の食事内容を見直し、適切なカロリー量を把握しましょう。

動物病院で愛犬の体型や活動量に応じた適正カロリーを計算してもらい、それに基づいて食事を調整することが大切です。

適切な食事量を求める際は、以下の手順で計算しましょう。

(1)安静時のエネルギー要求量(RER)を「体重(kg)×30+70」で算出

    *ここで言う体重とはその犬の適正体重もしくは目標体重です。

(2)成長段階や活動量に応じて係数を掛けて1日当たりのエネルギー要求量(DER)を算出

*係数に入る数値

✓仔犬の場合、生後4か月までは3.0、生後4か月~1年までは2.0

✓成犬の場合、避妊去勢済は1.6、避妊去勢なしは1.8

✓7歳以上の中高齢犬の場合、避妊去勢済は1.2、避妊去勢なしは1.4

たとえば、体重5kgの5歳の避妊去勢済みの犬の場合は下記のように計算します。

安静時のエネルギー要求量(RER)……5kg×30+70=220キロカロリー

1日当たりのエネルギー要求量(DER)……220×1.6(係数)=352キロカロリー

計算したDERに基づき、ペットフード100gあたりの代謝エネルギー(ME)を使用して1日当たりの食事量を計算することも可能です。(ペットフードの代謝エネルギーはパッケージに記載されています。)

計算式は「1日当たりの食事量(g)=DER(kcal)÷ME(kcal)×100(g)」です。

例えば、上記の犬が代謝エネルギー376キロカロリーのペットフードを食べていたとすると以下のように計算します。

一日当たりの食事量:352÷376×100=93.6g となります。

ダイエット用のフードやサプリメントを活用するのも効果的ですが、必ず獣医師に相談のうえで使用しましょう。無理な食事制限は健康を損なう可能性があるため、栄養バランスを考慮した適切な食事管理を徹底することが大切です。

出典:環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~」

おやつの与え方を見直す

犬の肥満を防ぐためには、日々のおやつの与え方を見直すことが重要です。おやつは食事の補助として与えるものですが、与えすぎや高カロリーなものを与えることが肥満の原因となる場合があります。

以下のポイントを参考に、おやつの与え方を見直しましょう。

  • 低カロリーで健康的なおやつを選ぶ(小さくカットした野菜や果物など※犬が食べても安全な種類に限る)
  • 一度に十分量を与えるよりは少量で。量は回数でカバーするように意識する
  • 家族全員でおやつの量や頻度についてルールを決める
  • トレーニングや褒める際におやつを使う場合もカロリー量を考慮する

おやつの選び方や量について迷った際には、必ず獣医師に相談しましょう。ふだん与えている食事の一部をおやつとして与えることもよい方法です。犬種や年齢、体重、活動量に応じた適切なアドバイスを受けることができます。

散歩などの運動量を増やす

犬の健康的な体重管理には、適切な運動量を確保することが欠かせません。特に散歩は肥満を防ぐための基本的な運動であり、犬の体力や年齢、犬種に合わせて計画することが重要です。

犬の種類や大きさによって必要な運動量は異なります。以下は、成犬の散歩時間の目安です。

  • 小型犬:1回20~30分程度 1日1~2回
  • 中型犬:1回30~45分程度 1日2回
  • 大型犬:1回60分程度 1日2回
  • 高エネルギー犬種(例:ジャックラッセルテリア):1回60分程度 1日2回

上記を参考にしつつ、犬種や年齢、健康状態に応じて運動量を調整しましょう。

病気が疑われる場合は動物病院を受診する

肥満は、単なる食べすぎや運動不足だけが原因ではなく、病気が関係している場合もあります。特に体調不良や異常な行動が見られる場合には、早めに動物病院を受診し、健康状態を確認することが重要です。

動物病院では血液検査や画像診断(レントゲンや超音波)、尿検査などを行い、肥満の原因を特定します。

さらに、定期的な健康診断を受けることで、病気を早期に発見し、適切な治療や管理を行うことが可能です。病気が関与している場合には、専門的な診断と治療に基づいて、適切なケアを提供することが愛犬の健康維持につながります。

 

まとめ 犬の肥満を防ぐために食事や運動を見直そう

愛犬の健康を守るためには、日々の食事管理と適切な運動が欠かせません。肥満は見た目だけの問題ではなく、さまざまな病気のリスクを高める要因になりますが、飼い主の少しの工夫で予防が可能です。

もし体重の急な増減や体調の変化が見られる場合には、早めに動物病院を受診し、健康状態を確認しましょう。定期的な健康診断は、病気の早期発見だけでなく、肥満予防にもつながります

 

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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