【獣医師監修】犬の外耳炎の症状とは?原因・治療・予防についても解説

ペット保険会社が発表している統計でも、外耳炎は犬がなりやすい病気の上位にランキングされているほど多い病気です。外耳炎と聞くと、つい軽く考える飼い主さんもいるようですが、放置すると炎症が中耳や脳へと広がっていくこともあるため、軽視できない病気です。どのようなことが原因となり、どういった症状が出るのか、またどのような検査や治療が必要で、予防できるのかなど、犬の外耳炎について詳しく解説します。
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犬の外耳炎とは
外耳炎とは、外耳に炎症が起きる耳の病気で、犬に多い病気の一つです。外耳とは、耳孔から鼓膜までの間のことです。人の外耳は水平方向にまっすぐですが、犬の場合は一旦垂直方向に下がった後水平方向に曲がるというL字型をしています。垂直方向の部分は垂直耳道、水平方向の部分は水平耳道と呼ばれています。
外耳炎は単純な病気ではありません。さまざまな要因が複雑に関連して発症するため、症状も進行の仕方も多岐にわたります。そのため、治療方法も簡単には決められません。検査により直接的または副次的な原因を究明し、最適な治療法を選択していきます。
特に根治が望めない原因による外耳炎の場合は、生涯を通して症状をうまく管理していく必要があります。動物病院のスタッフと飼い主さんが相談をしながら、協力し合って愛犬のケアに努めることが大切です。
犬の外耳炎の症状
外耳炎の症状が重症化する前に治療を始めることが、愛犬にかかる負担や治療費を軽くする秘訣です。できるだけ初期の段階で気付けるよう意識しながら、日々のケアを行いましょう。
初期症状
初期段階でわかりやすい症状が、耳のかゆみです。また、耳垢が増える、健康な時とは異なる異臭がする、赤く腫れるといった症状が現れます。具体的には、下記のような仕草や症状が見られた場合、外耳炎の可能性があります。できるだけ早めに動物病院で診てもらうことをおすすめします。
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耳を床や家具の角などに頻繁に擦り付ける
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耳を頻繁に掻く
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頭を頻繁に振る
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顔を触られるのを嫌がる
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首を傾げていることが増える
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耳垢が目立つようになる
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耳が臭くなる
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耳介や耳孔の周囲が赤い
なお、首を傾げている場合、下になっている側の耳にかゆみや痛みを感じていますので、そちら側の耳をよくチェックしてあげましょう。また耳介とは、頭から飛び出している耳の部分を指す名称です。
重症化した場合の症状
初期の段階で気付かずに放置してしまうと、症状は徐々に重症化していきます。重症化することで犬はより辛い症状に悩まされ、治療にかかる時間も負荷も大きくなります。重症化させてしまったことで、必要以上に長期的な治療が必要になることもあります。
外耳炎の原因によっても異なりますが、下記のような症状が見られるようになるでしょう。
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耳に触ると嫌がったり唸ったりする
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悪臭のする耳だれ(サラサラで透明の液体や膿の混じった粘り気のある液体)が出る
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外耳道が腫れて狭くなったり塞がったりする
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耳が聞こえづらくなり、飼い主の呼びかけへの反応が鈍くなる
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さらに放置していると聞こえなくなることもある
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痛みで鳴く、食欲が落ちる
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中耳炎や内耳炎に進行すると、平衡感覚の異常(斜頸・眼振)を起こすこともある
外耳は鼓膜までですが、鼓膜の奥には中耳、内耳と続き、さらに奥には脳があります。外耳炎を放置してしまうと、外耳だけだった炎症が中耳、内耳に広がり、上記のように平衡感覚が失われることがあります。そしてその奥の脳へと広がって脳炎を起こしてしまう可能性もあります。外耳炎は直接命に関わる病気ではありませんが、炎症が脳まで広がることで、命が脅かされるケースもあるということを覚えておきましょう。
犬の外耳炎の原因について

検査により外耳炎の原因を特定しますが、大抵の場合、複数の要素が見つかります。直接的な原因となる「主因」、発症した外耳炎により二次的に生じる「副因」、外耳炎で生じた耳の構造の変化が症状をさらに悪化させる「増悪因」、そして健康な時から外耳炎を発症するリスクとなる「素因」です。これらの原因について、詳細に解説していきます。
なりやすい犬の特徴
まず、外耳炎になりやすい犬の特徴(犬種)、つまり外耳炎の素因を説明します。
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垂れ耳で湿気がこもりやすい犬種(耳道の通気が悪く、細菌やマラセチアが繁殖しやすい):コッカー・スパニエル、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、バセット・ハウンド、ビーグル
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耳毛が密で耳垢がたまりやすい(耳道内に毛が多いことで通気性が低下し、耳垢や湿気がこもりやすい):プードル、シュナウザー、シー・ズー、マルチーズ、ヨークシャー・テリア
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皮膚疾患やアレルギー体質が多い犬種(アトピー性皮膚炎や食物アレルギーが関与して、外耳炎を繰り返す傾向があります):フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、柴犬
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狭い外耳道・脂漏体質の犬種(耳道が狭く、皮脂の分泌が多いことで細菌が繁殖しやすいタイプ):コッカー・スパニエル、バセット・ハウンド、シー・ズー
上記の特徴を持っている犬は、健康な時から耳のケアに気を配り、外耳炎の予防を心がけるようにすると良いでしょう。
引き起こすきっかけ
外耳炎を引き起こす直接的な原因が主因です。外耳炎を治療していく上で、最も意識しなければならない、重要な原因です。犬の外耳炎の主因として多いのが、下記です。
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ミミダニ
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アトピー性皮膚炎および食物アレルギー
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脂漏症
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分泌腺の異常(耳垢腺や脂腺の過形成)
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異物の混入(毛、植物、土砂等)
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内分泌系の病気(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、性ホルモン失調等)
主因の中でも、ミミダニや異物混入は、根治可能です。しかし、アレルギー、角化異常で引き起こされる脂漏症、分泌腺の異常や内分泌系の病気は、根治が困難だったり生涯を通して管理していかなければならないことも多いです。このように完治困難な主因の場合は、慢性再発性の外耳炎になることが多いです。
また異物混入の場合は、片耳だけに発症することが多く、それ以外の主因の場合は、両耳に発症するのが一般的です。
悪化・再発しやすくなる要因
○副因
外耳炎を悪化したり再発しやすくする副因には下記があります。
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ブドウ球菌、緑膿菌などの細菌感染
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マラセチア(真菌)の感染
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点耳薬や洗浄液を誤った方法で使用したことによる影響
主因をうまくコントロールできれば、副因は比較的容易に除去できる場合が多いです。しかし、主因へのアプローチをおろそかにして副因(例えばマラセチアへの感染)にばかり対処をすると、再発を繰り返すなどになることもあります。
○増悪因
外耳炎の悪化や再発に関与する増悪因には下記があります。
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浮腫(むくみ)や狭窄による耳道の通気性が損なわれる
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耳垢が増えすぎる
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分泌腺の異常
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鼓膜の変化や破綻
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耳道周囲の石灰化
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中耳の病変
特に初期に生じるのが、浮腫や耳垢過多です。獣医師の処方による点耳薬を正しく使用したり正しく洗浄すれば、多くは適切に管理することが可能です。しかし初期状態で管理できないと、慢性化につながり耳道の狭窄や耳道周囲の石灰化、中耳の病変などへと増悪因も進み、点耳薬や洗浄では管理が難しくなります。
犬の外耳炎の検査方法
適切な治療のために、適宜必要な検査を行います。
○耳鏡検査/耳垢検査
まず耳鏡検査で、耳の内部の腫れや耳垢の状態を確認します。さらに耳垢を採取し、細菌等への感染の有無を検査します。
○耳道カメラ検査
一般的な手持ち耳鏡では、水平耳道や鼓膜まで調べることができません。そこで最近は、水平耳道や鼓膜まで確認できるオトスコープを導入し、先端にライトやカメラを装着したビデオオトスコープを採用している動物病院が増えてきています。耳道内の洗浄や異物の除去など、治療ツールとしても使われています。
○レントゲン検査
外耳の炎症が奥までが広がり中耳炎を発症している場合や鼓膜が傷ついている場合は、頭部のレントゲン検査で外耳道の石灰化や鼓室胞壁の肥厚、外耳道への液体貯留などを調べます。
○アレルギー検査
外耳炎の主因として最も多いのが、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーです。そのため、主因にアレルギーが疑われる場合、アレルギーの有無やアレルゲンの特定を行います。食物アレルギーでは耳のみに症状が現れることもありますので、外耳炎の原因として重要な鑑別疾患になります。
○基礎疾患検査
主因に内分泌系の病気が疑われる場合は、血液検査、尿検査、画像検査、ホルモン検査などで、基礎疾患を特定します。
犬の外耳炎の治療
以前は、比較的単純に点耳薬と洗浄を行うだけ、または副因であるマラセチアなどへの対応を主として行うなどの治療により、治癒と再発を繰り返させていたケースも見られました。
現在は、外耳炎に対する理解が深まり主因や素因をベースに最適な治療に取り組む動物病院が増えてきています。では、実際の治療方法について見ていきましょう。
治療方法
外耳炎の治療は、その犬の主因、副因、増悪因、素因により適切な治療を組み合わせて行います。
○主因に対するアプローチ
ミミダニの駆虫、異物の除去、分泌腺の異常に対する内科的または外科的な治療などを適宜行います。脂漏症の場合は、定期的な耳の洗浄、年齢ステージに合った栄養管理、高温多湿環境の改善などの環境管理を行います。
食物アレルギーの場合は、アレルゲンとなる食材を除いたフードに切り替えます。アトピー性皮膚炎の場合は、薬剤によるアトピーそのもののコントロールに加え、耳道のケアや栄養管理、環境管理、生活指導、ストレスケアなどで病気を管理します。また特定された内分泌系の病気があれば、その治療を優先します。
○副因に対するアプローチ
耳垢検査で細菌やマラセチアが検出された場合、洗浄を行って除去します。その上で、必要に応じて抗菌薬や消毒薬を使用します。
○増悪因に対するアプローチ
耳道の肥厚や線維化、狭窄、耳垢腺の過形成は抗炎症薬の使用、重度な場合は外科的治療を行うことがあります。耳垢過多は洗浄で対処します。
鼓膜の変化や破綻は主因の治療で改善することが多いですが、鼓膜が破綻した場合の点耳や洗浄には使用禁忌のものもあるため、その薬剤や洗浄液の選択に注意が必要です。
耳道周囲の石灰化には、外科的処置が、中耳の病変には投薬や内視鏡による治療が必要となることがあります。
○素因に対するアプローチ
耳の形態的な問題の改善は難しいですが、多すぎる耳毛のカットで改善が望める場合もあります。
また、定期的なケアや適切な環境について学ぶことも改善の一助になる可能性があります。
治療期間
外耳炎の治療期間は、主因、素因や進行状況等によりさまざまです。
根治できる主因であれば、1ヶ月程度で治療できる場合が多いですが、重症化している場合やアレルギーのように根治が望めない主因の場合は、生涯を通して適切なコントロールが必要になる場合もあります。
治療費
軽度の外耳炎であれば1回の通院で5,000~10,000円、既に慢性化した外耳炎などで処置が複雑になる場合は15,000円〜30,000円程度が相場だと言われています。ただし、主因や副因、増悪因、素因、そして進行状況などにより、必要となる検査や治療方法はさまざまです。
かかりつけの動物病院で相談し、治療計画や治療費の見込み額などを確認した上で、納得できる治療を選んであげることが大切でしょう。
犬の外耳炎の予防方法

愛犬の外耳炎の発症や再発を抑止するためには、愛犬の耳の形態や住環境、生活習慣などに潜んでいる素因を考慮しながら、最適な予防方法を見つけることが大切です。基本的には耳の中の通気性を良くし、耳道内が高温多湿になることを防ぐことが主眼となります。
トリミングサロンや動物病院で多すぎる耳毛を処置しててもらう、水遊びやシャンプー時に耳の中に水が入らないように注意し、終わった後はケアする、日常的に両耳をよく確認して色やニオイの変化に注意するなどが、予防につながります。またアレルギーのある犬は、耳の症状の有無に関わらず、日頃から耳のケアについてもよく配慮しましょう。
耳の中を清潔に保つことも、予防にもつながります。ただし、健康な犬の耳垢は、自然に耳孔へと押し出されて排出されます。過剰な耳掃除はかえって耳を傷つける可能性があるため、注意が必要です。犬の正しい耳掃除の仕方については、下記の記事も参考にしてください。
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犬の耳掃除はどうすればいい?頻度や正しいやり方、NG行為など獣医師が解説
犬の外耳炎についてよくある質問
犬の外耳炎に関するよくある質問をご紹介します。
なりやすい犬種は?
外耳炎になりやすいのは、素因を持っている犬です。以下に具体的な犬種名を挙げます。
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アメリカン・コッカー・スパニエル
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プードル
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ミニチュア・シュナウザー
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レトリーバー
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キャバリア
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ダックスフンド
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フレンチ・ブルドッグ
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パグ
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シー・ズー
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チワワ
自然に治ることはある?
軽症であれば、自然に治癒する場合もありますが、治癒したように見えても再発を繰り返すようになることが多い病気ですので、治療は必要です。また、人用の外耳炎薬や他の犬の外耳炎薬を、自己判断で流用してはいけません。
誤った治療は、症状の悪化や副因・増悪因の原因になりかねません。動物病院で最適な治療を受けることをおすすめします。
まとめ 犬の外耳炎は早めの対処が大切
獣医療は日進月歩で進んでいます。以前は、外耳炎の治療が適切ではなかったために、治癒と再発を繰り返し、飼い主さんが転院を繰り返すというケースも少なくありませんでした。
しかし現在は、主因を突き止めて正しいアプローチによる治療を行い、いたずらに治癒と再発を繰り返すというようなことは減りつつあります。できれば、皮膚科認定医のいる動物病院であれば、さらに安心して治療に取り組めるでしょう。
- 監修者プロフィール
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岩谷 直(イワタニ ナオ)
経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許




