【獣医師監修】犬のマラセチア皮膚炎とは?症状・原因・治療などについても解説

2025.11.04
【獣医師監修】犬のマラセチア皮膚炎とは?症状・原因・治療などについても解説

マラセチア皮膚炎は、犬の皮膚に常在しているマラセチア菌が過剰に増殖することで起こる皮膚疾患です。「赤みがある」「かゆがる」「ニオイが強い」といった症状が見られる一方、発症の背景にはアレルギーや体質などさまざまな要因が関係しており、繰り返しやすいという特徴があります。


本記事では、犬のマラセチア皮膚炎の症状・原因から治療法、検査、予防のポイントまでを獣医師監修のもとで詳しく解説します。

目次

 

犬のマラセチア皮膚炎とは

 

マラセチア皮膚炎は、犬の皮膚に常在している「マラセチア」という酵母様真菌が過剰に増殖することで起こる皮膚炎です。通常は皮膚のバリア機能によってその増殖はコントロールされていますが、アレルギー性皮膚炎や内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)、脂漏症などの基礎疾患がある場合、皮膚の環境が乱れやすくなり、マラセチア菌が増殖して炎症が起こります。

 

軽度であれば一時的なかゆみ・発赤だけで済むこともありますが、慢性的に繰り返すケースも多く、長期的なケアが必要になることも少なくありません。

 

犬のマラセチア皮膚炎の症状

 

マラセチア皮膚炎にかかった犬には、赤み・かゆみ・皮膚のベタつきなどの症状が現れます。

皮膚を頻繁に掻いたり舐めたりする様子が見られ、赤いブツブツやかさぶた、ベタついた皮膚やフケがみられることもあります。また、脂っぽい独特のにおいが生じやすいのも特徴で、症状が長く続くと、皮膚が厚く硬く(苔癬化)なったり、黒く色素沈着する場合もあります。

このような状態が続くと愛犬の生活の質(QOL)が低下してしまうため、早めの対処が重要です。

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犬のマラセチア皮膚炎の原因

 

犬のマラセチア皮膚炎の原因

 

犬のマラセチア皮膚炎は、単にマラセチア菌が存在するだけで発症するわけではなく、皮膚環境が乱れたときに菌が過剰に増殖することで引き起こされます。特に影響を及ぼすのは前述したアレルギー性疾患や内分泌疾患などの基礎疾患の存在ですが、それ以外の要因としては「湿度」「皮脂の分泌量」「体質(犬種)」などが挙げられます。


マラセチア菌は高湿度の環境を好むため、梅雨や夏場など蒸れやすい季節は増殖しやすくなります。また、耳垢や皮脂が多い犬では、その皮脂を栄養源として菌が増えやすく、皮膚バリアが崩れやすくなります。皮膚をしきりに舐めたり掻いたりしてしまう行動も、炎症を助長しマラセチア皮膚炎の発症につながる原因の一つです。


シーズーやパグ、テリア系など、皮脂分泌が多い犬種はもともと皮膚トラブルを起こしやすいため、日常的なスキンケアや湿気対策が特に重要です。また、パグやフレンチ・ブルドッグなどは高湿度になる皺の間にも注意が必要です。さらに、加齢やストレス、免疫力の低下によって皮膚バリア機能が弱まっている場合も、マラセチア菌が増殖しやすい状態になります。


マラセチア菌は真菌(カビ)の一種であるため、似たような症状が見られる皮膚糸状菌症との鑑別が必要です。真菌が原因となる別の皮膚病については、下記の記事も参考にしてください。

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犬のマラセチア皮膚炎の治療

 

マラセチア皮膚炎の治療は、物理的にマラセチアを抑える目的で薬用シャンプーを使用することから始めるのが一般的です。局所的な場合や軽度な場合は外用剤や薬用シャンプー、重症例や全身に病変が広がっている場合は内服薬とシャンプーなどの外用剤を併用することもあります。


また、基礎疾患がある場合は再発を防ぐために根本的な治療も並行して行う必要があります。犬のマラセチア皮膚炎の治療について詳しく見ていきましょう。

全身療法

症状が全身に広がっている場合や、かゆみが強く生活に支障が出ている場合には、抗真菌薬や痒み止めなどの内服薬による治療を行います。抗真菌剤にはイトラコナゾールやテルビナフィンなどの副作用が少ないものや、ケトコナゾールのような効果は高いですが副作用に注意が必要なものなどいくつかの種類があります。

内服薬は炎症や症状を短期間で抑えるうえで効果的ですが、長期間の使用には副作用のリスクがあるため、症状が改善してきたタイミングで薬用シャンプーなどの外用療法へ移行することが望ましいケースもあります。

また、アレルギー性皮膚炎やホルモン疾患が背景にある場合は、それ自体の治療を並行して行うことで再発の予防につながることがあります。

外用療法

症状が局所的な場合や軽度の場合には、薬用シャンプーや抗真菌薬入りの塗り薬によって治療を行います。


マラセチアに有効な成分としては、クロルヘキシジンやミコナゾールを含む薬用シャンプーが挙げられますが、洗浄力や抗菌力が強いため、シャンプー後に皮膚が乾燥したり赤みが出ることもあります。その場合は保湿剤を併用すると効果的なことがあります。週に1~2回の実施が一般的に推奨されます。


症状が落ち着いてきたら、過剰な皮脂の分泌を抑える成分を含んだシャンプーに切り替え、皮膚環境を整えることで再発を防ぎやすくなることがあります。なお、シャンプーの頻度や治療に使用するシャンプーは獣医師と相談しながら選ぶことが大切です。

 

犬のマラセチア皮膚炎の検査方法

 

マラセチア皮膚炎が疑われる場合、症状だけで判断するのではなく、皮膚表面に存在する菌の有無や数を確認するための検査を行います。実際にマラセチアが増殖しているかどうかを確認することで、診断の確定や治療方針の選択につなげることができます。犬のマラセチア皮膚炎の検査方法について詳しく見ていきましょう。

直接押捺塗沫検査

直接押捺塗沫検査は、スライドガラスを皮膚に軽く押し当てて表面の付着物を採取し、染色して顕微鏡で観察する方法です。主に平らな部位に適用され、皮膚表面に存在する細胞やマラセチア菌・細菌などの病原体を直接確認できます。

菌の有無だけでなく、どの程度増殖しているかも把握できるため、診断や経過観察にも有用な検査です。

テープストリッピング

テープストリッピングは、粘着性のあるテープを皮膚に貼り付けて角質層の表面を採取し、染色して顕微鏡で観察する方法です。顔周りや指の間、しわのある部分など、凹凸が多くスライドガラスを当てにくい部位の検査に適しています。


マラセチア菌が皮膚の表層にどの程度存在しているかを確認できるため、直接押捺塗沫検査とあわせて用いられることが多いです。


なお、症状や部位によっては、皮膚スクレーピングや皮膚生検などを併用し、他の皮膚疾患との鑑別を行うこともありますが、マラセチア皮膚炎の診断においては、上記2つの検査が主流となっています。

 

犬のマラセチア皮膚炎の予防方法

 

犬のマラセチア皮膚炎の予防方法

 

マラセチア皮膚炎は完治が難しいこともあるため、日頃から皮膚環境を整え、再発や悪化を防ぐケアを継続的に行うことが重要です。


ここでは、家庭で取り入れやすい予防方法を紹介します。

定期的なシャンプーで清潔に保つ

月に1回など適切な頻度で定期的にシャンプーを行い、皮膚や被毛を清潔に保つことはマラセチア菌の増殖を防ぐうえで効果的なことがあります。犬の皮脂や汚れを取り除くことで、皮膚表面に菌が増えにくい環境を維持できます。また、ブラッシングによって通気性が良くなり、湿気がたまりにくくなります。もともとマラセチアの多い耳の中、口周り、皺の間などは普段から注意してケアしてあげましょう。


水遊びや雨の日の散歩の後は、濡れた被毛をしっかりと拭き取り、乾燥させることも忘れないようにしましょう。湿った状態が続くと、マラセチア菌にとって好条件となってしまいます。

食事のバランスを整える

皮膚や被毛の健康を維持するためには、食事による内側からのケアも欠かせません。栄養バランスの整ったフードを適切な量で与えることで、皮膚本来のバリア機能を保ちやすくなります。また、肥満になると皮膚が重なり合う部分が増え、蒸れやすい環境ができてしまいます。体重管理を意識し、必要に応じてダイエットを行うこともマラセチア皮膚炎の予防につながります。


日常的なケアを続けることで、多くの場合は皮膚環境を良好に保つことができます。ただし、適切なケアをしていても皮膚トラブルが繰り返し起こる場合は、基礎疾患が関係している可能性もあるため、なるべく早く獣医師に相談しましょう。

 

犬のマラセチア皮膚炎についてよくある質問


マラセチア皮膚炎については、「他の犬にうつるのか?」「食事は変える必要があるのか?」といった飼い主さんからの疑問をよくいただきます。ここでは、特に相談の多い項目についてわかりやすく解説します。

なりやすい犬種は?

マラセチアは皮脂を栄養源として増殖するため、もともと皮脂の分泌量が多い犬種では発症リスクが高い傾向にあります。以下のような犬種は注意が必要です。


  • アメリカン・コッカー・スパニエル

  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア

  • ミニチュア・シュナウザー

  • トイ・プードル

  • シーズー

  • ビーグル

  • ボストン・テリア など


このような犬種では、もともと脂漏体質であったり、アレルギー性皮膚炎を併発しているケースも多いため、日常的なスキンケアやこまめなチェックを心がけましょう。

他の犬や人にうつる?

マラセチア菌は、健康な犬の皮膚にも存在している常在菌の一種です。そのため、他の犬や人に感染することは基本的にありません。

ただし、体質や環境の変化によって菌が過剰に増殖し、皮膚炎を引き起こすことがあります。

発症した場合の食事は普段通りで良い?

食事を大きく変える必要はありませんが、栄養バランスが整った食事を継続することが予防・管理のうえで大切です。皮膚バリアをサポートする必須脂肪酸(オメガ3系・オメガ6系)を適量摂取することは、皮脂の分泌バランスを整えるうえでも有効とされています。


ドッグフードには基本的な栄養素が含まれていますが、体質やアレルギーの有無によっては、サプリメントの併用や一部の食材の除去が必要になるケースもあります。食事を調整する際には、獣医師や動物栄養学の知識を持った専門家に相談しながら進めると安心です。

 

まとめ 犬のマラセチア皮膚炎は継続的なケアが重要

 

犬のマラセチア皮膚炎は、湿度・皮脂量・体質などが重なったときに発症しやすく、慢性化しやすい皮膚疾患です。内服薬や薬用シャンプーなどで治療することができますが、完治には時間がかかることも多く、日頃から皮膚を清潔に保つことや栄養バランスの整った食事を続けることが重要です。


再発を防ぐためには、「症状が落ち着いてからのケア」を継続することが何より大切です。もし何度も繰り返す場合や、ご自身でのケアに不安がある場合には、早めに獣医師へ相談しましょう。

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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