【24年最新】獣医師が解説!犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは? 症状と予防・治療方法と治療費用など

2024.02.20
【24年最新】獣医師が解説!犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは? 症状と予防・治療方法と治療費用など
犬に多い疾患のひとつ、パテラ(膝蓋骨脱臼)。愛犬がパテラと診断されたとき、体の中ではどのようなことが起きているのか、症状や予防法、治療法と治療費用について、獣医師がわかりやすく解説しますので、どうぞ参考にしてください。
目次



犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは


はじめに、犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とはどのような疾患であるかについて理解を深めておきましょう。

パテラは英語で「patellar」と書き、膝蓋骨(しつがいこつ)を意味する単語です。ただし、動物の病気として扱われる「パテラ」は、膝蓋骨に脱臼が起きた状態、つまり膝蓋骨脱臼のことをいいます。膝蓋骨脱臼を英語にすると、正確には「patellar luxation(パテラ ラクセイション)」となりますが、犬ではよく見られる病気ということもあり、通称「パテラ」と呼ばれています。

さて、パテラ(膝蓋骨脱臼)と診断されたとき、犬の体の中ではどのようなことが起きているのでしょうか。状態としてはわかりやすく、膝のお皿の骨である膝蓋骨が、あるべき位置からずれてしまっています。膝蓋骨は膝頭に位置している骨なので、正常な状態では正面を向いて収まっているものです。しかし、先天的な要因、もしくは後天的な要因により、内側あるいは外側にずれてしまうことがあります。これが、パテラ(膝蓋骨脱臼)です。参考までに、内側にずれる場合を「内方脱臼」、外側にずれる場合を「外方脱臼」といいます。この脱臼が起こるたびに膝関節にズレを生じさせることになるため、徐々に関節部位に炎症が起こり痛みや変形などの骨格への影響が出てくることがあります。

内方脱臼と外方脱臼では内方脱臼のほうが見られる頻度が高く、片足に起きることもあれば両足に起きることも。犬種に関係なく発症するといわれていますが、トイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、チワワ、ヨークシャ・テリアといった小型犬に多いことが知られています。


どんな犬種がなりやすい?


小型犬全般(トイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、チワワ、ヨークシャ・テリア、パピヨン、マルチーズなど)だけでなく、柴犬、ゴールデン・レトリーバーなどでも見られます。


犬のパテラ の原因

犬のパテラの原因には、以下の要因が関与しています。
遺伝的要因
特定の犬種では、遺伝子によってパテラの発生リスクが高まることがあります。遺伝的な要素がパテラの発症に関与することは、獣医学の研究によって明らかにされています。犬種によっては、特定の遺伝子の変異がパテラのリスクを増加させる可能性があります。
筋肉の弱さ
筋肉の発達不足や筋力の不均衡がパテラを引き起こす可能性があります。犬の筋肉は、パテラの予防に重要な役割を果たします。筋肉の弱さや不均衡は、膝蓋骨の正しい位置を維持するためのサポートを提供できず、パテラの発症リスクを高める可能性があります。
靭帯の緩み
脚の靭帯が弱い場合、膝蓋骨が正しい位置に収まらず、脱臼のリスクが高まります。靭帯は、関節の安定性を維持するために重要な役割を果たしています。靭帯の緩みや弱さは、膝蓋骨の安定性を損ない、パテラの発症リスクを増加させる可能性があります。


犬のパテラの症状



犬のパテラの症状は、脱臼の程度によって異なります。以下にそれぞれのグレードごとに症状を説明します。

グレード1
グレード1では、膝蓋骨を手で押すと外れますが、手を離すと元に戻る状態です。犬は普段の生活で特に異常な様子を見せませんが、激しい運動の後に症状が現れることがあります。犬が後ろ足を上げて鳴いたり、スキップのような動作をしたりする場合、パテラの可能性があると言えます。
グレード2
グレード2では、基本的に膝蓋骨は正常な位置に収まっていますが、足を曲げ伸ばしすると脱臼します。手で膝蓋骨を押すと元の位置に戻り、日常生活には大きな支障はありません。
グレード3
グレード3では、膝蓋骨が日常的に脱臼し、手で押してもすぐにずれてしまいます。犬は後ろ足を引きずるように歩く様子が見られることがあります。また、ほかの骨が変形するなどの影響も見られる場合があります。
グレード4
グレード4では、膝蓋骨が常に脱臼した状態であり、手で押しても元に戻りません。犬はほかの骨が変形するなどの影響を受け、後ろ足をつけずに歩いたり、うずくまるように歩いたりする場合があります。


犬のパテラの予防法

犬のパテラを予防するためには、膝関節に負担をかけないようにすることが重要です。以下に予防法をいくつか紹介します。

床材のチェック
滑りやすい床材(フローリングやタイルなど)は、犬のパテラの発症や症状の悪化につながる可能性があります。愛犬が日常的に過ごす場所では、カーペットなどを敷くなどして滑りにくくしておきましょう。また、爪と肉球の間の毛が伸びていると、踏ん張りにくくなり滑りやすくなることもあります。定期的にチェックし、ケアすることも予防の一環です。
高いところからの飛び降りを避ける
高いところからの飛び降りや、激しい運動は関節に大きな負担をかけるため、予防の観点から避けるべきです。愛犬が高い場所にのぼれないように工夫し、運動量を適切に管理することも重要です。
体重管理
体重が適正範囲を超えると、膝に負担がかかります。愛犬の体重を適切に管理し、肥満を防止することは予防につながります。
関節をケアするサプリメントの使用
関節の健康をサポートするためのサプリメントを使うことも予防に役立ちます。獣医師の指導のもと、適切なサプリメントの使用を検討しましょう。


犬のパテラの治療方法・治療費用

犬のパテラの治療方法は、内科的な管理と外科的な手術の2つのアプローチがあります。

内科的な管理
症状が軽度な場合は、内科的な治療が選択されることがあります。この場合、獣医師は犬に対してサプリメントや痛み止めの処方を行いながら、生活環境の改善や体重管理などの方法で治療を進めます。内科的な治療では、症状を管理しながら犬の生活の質を向上させることが目標とされます。
サプリや薬などを使用する場合、一回当たりの治療費用は数千円~数万円程度と予想されています。
外科パテラ手術
症状が重度な場合や内科的な治療が効果的でない場合は、外科的な手術が必要となることがあります。外科的な手術にはいくつかの方法があり、犬の種類や症状、年齢によって適切な手術方法が選ばれます。手術には一定のリスクが伴いますが、犬の生活の質を改善し、症状を軽減させることが期待されます。
一回当たりの治療費用についておよそ15万~50万円と言われています。


まとめ

犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)は、犬の膝関節の疾患であり、膝蓋骨があるべき位置から脱臼してしまう状態を指します。症状の程度によって軽度から重度まで分類され、適切な予防や治療が重要です。予防法としては、床材のチェック、高いところからの飛び降りの回避、体重管理、関節をケアするサプリメントの使用が挙げられます。治療方法としては、内科的な治療と外科的な手術があります。愛犬の健康と幸福を守るために、定期的な健康チェックや症状の監視が重要です。


監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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