【獣医師監修】犬が皮膚病になる原因とは?よくある症状と対策についても解説

2024.10.31
【獣医師監修】犬が皮膚病になる原因とは?よくある症状と対策についても解説

「これって皮膚病?」

飼っている犬に異変が起き、このような不安を感じる方がいるのではないでしょうか。皮膚病が悪化すると、重篤な症状が出る場合があります。

本記事では、犬の皮膚病の症状や原因、対策方法について解説します。犬の健康を守るためにも、皮膚病に関する知識を深め、適切に対処しましょう。

目次

 

犬の皮膚病とは

犬の皮膚病とは

犬の皮膚病は、犬の皮膚にの異常が起きた状態です。毛に覆われている犬の皮膚は、人間に比べると薄くてデリケートになっているため、ちょっとした刺激でも皮膚に異変が生じてしまうことがあります。

犬の皮膚病の原因や症状の重さはさまざまです。代表的な診断名だけでも、膿皮症(のうひしょう)、脂漏症(しろうしょう)、マラセチア皮膚炎、ニキビダニ症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎など、複数の種類が挙げられます。

また、これらの中には、治療してすぐに快方に向かうものもあれば時間がかかるものも。遺伝性の疾患など完治が望めないケースもあり、その場合は生涯をかけて上手に付き合っていく必要があります。


犬の皮膚病の症状

犬の皮膚病とは?

犬が皮膚病になると、以下の症状が起こる場合があります。該当するものがないかチェックしましょう。

毛が抜ける

犬が皮膚病になると、毛が抜け落ちてしまい、皮膚があらわになる場合があります。脱毛が起こりやすい場所としては、以下のとおりです。

  • 内股
  • 足先
  • 顔まわり

とくにかゆみがある脱毛の場合、皮膚をかき続けてしまい、傷がついたり、毛が切れてしまったりします。ホルモンの分泌が関係する内分泌疾患が起因している場合は、かゆみをともなわずに毛が抜けることもあります。

かさぶたやフケが多く見られる

かゆみをともなう皮膚病の場合、皮膚をかき続けてしまい、かさぶたができるのが特徴です。また、皮膚に発疹が生じることでも起こります。

健康な犬の場合、古くなった細胞がフケとなって剥がれ落ち、新しい細胞に置き替わる周期は3週間程度です。皮膚に異常が起こると細胞の置き換わる期間が短縮され、フケが増加し、目立つようになります。

皮膚や毛が脂っぽい

皮脂の分泌に異常が起こり、毛が脂っぽくなると、脂漏症(しろうしょう)になっている場合があります。脂漏症になると、フケが増えることもあります。

また、皮膚に存在する常在菌のバランスが崩れ、炎症が生じることもあります。フケの量やかさぶたなどができていないかをチェックしましょう。

かゆがる仕草をする

犬がかゆがる仕草をしている場合、皮膚病にかかっている可能性があります。おもなサインは以下のとおりです。

  • かゆい部分を噛む
  • 病変部を頻回に舐める
  • かゆい部分を後ろ足でひっかく
  • 壁や床に体をこすりつける

上記の仕草がある場合、寄生虫に感染したり、アレルギーなどが起きたりしていることがあります。

発疹がある

犬の皮膚病では、以下の発疹が起こる場合があります。

  • 水疱(すいほう):皮膚の下に水がたまっている状態
  • 膿疱(のうほう):水疱の中身である膿
  • 丘疹(きゅうしん):直径1cm以下の隆起(盛り上がり)

炎症やアレルギーによって、皮膚のかゆみや赤みをともなうのが特徴です。

皮膚が赤い

ニキビダニ症になり、毛穴に潜むニキビダニが増殖すると、かゆみや赤みをともなう場合があります。軽症の場合は、かゆみだけの症状にとどまりますが、重症化すると赤みが目立つこともあります。

犬の体を確認し、赤みやかゆみが出ている箇所がないかをチェックすることが大切です。

独特なにおいがする

カビの一種であるマラセチアが原因となる皮膚炎が起こると、独特な臭いを発することがあります。マラセチアは、とくに以下の蒸れやすい部位で症状が出やすいとされています。

  • 鼠径(そけい:太もものつけ根にある溝の内側付近)

普段とは異なる独特な臭いを感じたら、上記を確認してみましょう

 

犬の皮膚病の原因

犬の皮膚病の原因

犬が皮膚病にかかる場合、さまざまな原因があります。以下の内容を把握し、犬の様子を確認してください。

アレルギー(アトピー性皮膚炎など)

アレルギーによる皮膚炎として挙げられるのが、アトピー性皮膚炎とノミアレルギー性皮膚炎です。アトピー性皮膚炎は、カビ、ダニ、花粉、ハウスダストなどのアレルゲン(アレルギーの原因となる抗原)が皮膚内に侵入することで発症します。

アレルゲンが体内に入り込むと、免疫反応により、赤みやかゆみなどのアレルギー症状が起こるのが特徴です。アトピー性皮膚炎は、6ヶ月〜3歳未満の小さい犬に多く、おもに柴犬、シー・ズー、フレンチ・ブルドッグなどが発症するとされています。

アトピー性皮膚炎の初期症状は、かゆみです。症状が悪化すると皮膚をかいて傷つき、多くのアレルゲンが体内に入り込み、より強いアレルギー症状が起こる可能性があります。かゆみが慢性化すると、皮膚が黒くなり、色素沈着が起こります。

かゆみが出るおもな部位は、以下のとおりです。

  • お腹
  • お尻
  • 前肢の先端
  • 後肢の先端

また、おもな治療方法としては以下が挙げられます。

  • 外用剤/シャンプー
  • ステロイド
  • 免疫抑制剤
  • 分子標的薬
  • 抗ヒスタミン剤

ノミアレルギー性皮膚炎は、犬に付着したノミに対するアレルギーによって生じる皮膚炎です。ノミが好む寄生箇所は腰背部・下腹部・内股などです。これらの箇所に湿疹や赤み、さらには掻くことによる傷や脱毛の症状がみられる事が多いです。

とくに3〜6歳頃になると、発症する傾向があります。治療法としては、原因となるノミの駆除(駆虫薬)が挙げられます。ステロイドによる痒みの抑制は一時的な効果ですので、必ずノミの駆除、予防をしていきましょう。

細菌の感染(膿皮症など)

細菌の感染によって起こるのが、膿皮症(のうひしょう)です。膿皮症とは、おもに常在菌であるブドウ球菌が増え、皮膚が化膿することで起こる皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎や副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症などの基礎疾患を持つと、バリア機能が低下し、おもに以下の症状が起こります。

  • 過剰なフケ
  • かゆみ
  • 発赤
  • 膿疱(ふきでもの)
  • 脱毛
  • かさぶた

膿皮症は、1か所に限定されていることもあれば、全身の皮膚に広がることもあります。治療法としては、クリームや軟膏等の外用抗菌薬や薬用シャンプー、経口や注射などの全身性の抗生物質などが挙げられます。

真菌の感染(皮膚糸状菌症・マラセチアなど)

真菌として挙げられるのが、皮膚糸状菌症とマラセチア皮膚炎です。皮膚糸状菌症とは、皮膚糸状菌と呼ばれるカビの一種が感染することで起こる皮膚病です。罹患すると、フケやかゆみ、発疹や脱毛などの症状が起こります。

皮膚糸状菌症は、老犬や子犬といった免疫力の低い犬に起こりやすく、体に円形、不整形、あるいはびまん性の脱毛がみられる事があります。また、ウサギやハムスターから感染する可能性もあります。おもな治療法としては、薬用シャンプー、クリームや軟膏等の外用剤、経口抗真菌薬などが挙げられます。

マラセチア皮膚炎とは、健常な犬の皮膚にも存在するカビの一種であるマラセチアが過剰に増殖することで発症する皮膚病です。アトピー性皮膚炎や脂漏症、甲状腺機能低下症などの基礎疾患があると、マラセチアが過剰に増殖して皮膚トラブルを起こします。

症状としてはフケやべたつき、かゆみや悪臭などが起こり、耳や趾間、腋窩、鼠径などの蒸れやすい部位で発症しやすいのが特徴です。おもにシーズーやウエストハイランド・ホワイト・テリアは罹患しやすいとされています。治療法は基礎疾患の有無やその種類により異なることがありますが、マラセチアそのものに対してはクリームや軟膏等の外用剤、薬用シャンプーなどが挙げられます。

寄生虫(ノミ・マダニ・ヒゼンダニなど)

寄生虫の感染で起こる皮膚病では、シラミやマダニ、ヒゼンダニやノミなどが原因で起こります。とくに症状が強いとされているのがヒゼンダニによる疥癬(かいせん)です。

疥癬では、ヒゼンダニが皮膚にトンネルのようなものを作って寄生し、激しいかゆみを起こします。肘や耳の縁、顔周り、後ろ足などに好発します。かゆみにより患部を引っ掻いたりかじったりすることで脱毛が起こることがあり、脱毛に加えて皮膚に炎症が生じ、細菌の二次感染が起こることもあります。

疥癬は感染力が強いため、外飼い・多頭飼いしている家庭の犬は、感染のリスクが高まる可能性があります。治療するためには、薬用シャンプーや駆虫剤の投与が必要です。

ニキビダニが原因となって起こる皮膚病として挙げられるのが、毛包虫症(もうほうちゅうしょう)です。皮膚症状は左右対称に分布することが多く、特に顔、手足の先によく認められます。症状が悪化すると、皮膚の腫れや出血が起こったりします。

国内ではブルドッグ、ボストン・テリア、ウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーにおいて、比較的多く認められます。治療法としては、一般的な薬物療法として駆虫薬が用いられますが、原因として免疫力の低下もいわれていることから必要に応じて原因に対する治療も必要となります。補助的なスキンケアとして薬用シャンプーも検討されます。

ストレス

ストレスが蓄積すると、特定の部位をひたすら舐めたり噛んだりする行動を示すことがあり、その結果、皮膚への過剰な刺激が生じて炎症が起こることがあります。とくに、犬自身の性格や生活環境によって発症するのが特徴です。おもな要因は以下のとおりです。

  • 運動不足
  • 同居動物と不仲
  • 飼い主と関係が構築できていない
  • 体格に合わないケージで飼育されている

また、以下の行動も起こる場合があります。

  • 足先を舐める
  • 脇腹を吸う
  • 陰部を舐める
  • 尻尾を噛む

 

犬の皮膚病の対策方法

犬の皮膚病の対策方法

犬の皮膚病を対策するためには、飼い主さんのサポートが必要です。以下の内容を実践し、犬の健康を守りましょう。

日頃からスキンケアを心がける

日頃からシャンプーやスキンケアを心がけることが大切です。皮膚表面の雑菌を洗い流し、スキンケアで皮膚の常在細菌のバランスを維持することで、バリア機能が維持されやすくなります。

シャンプーをするときは、低刺激のものを使用し、犬の体温よりも低い温度で洗いましょう。シャンプーが終わったら、清潔なタオルで水気を拭き取り、ドライヤーを使用しながら丁寧に乾かしてください。

このとき、風量を強めず、高温にならないようにするのがポイントです。ブラッシングをするときは、力を抜いて優しく毛を整えてあげましょう。乾かし終わったら、保湿剤をつけてスキンケアをすることが重要です。

生活環境を整える

とくに高温多湿な梅雨や夏の時期は、体がべたつき、皮膚の細菌が増殖しやすくなる傾向があります。そのため、エアコンを使用し、適切な温度を保つことが大切です。目安として、室温を22〜25℃程度に保つように調整しましょう。

また、室内が乾燥しすぎると皮膚のバリア機能が低下し、皮膚病にかかるリスクがあります。そのため、加湿器を使用し、湿度を50%程度に維持してください。また、犬用の保湿剤を使用して、皮膚の水分量を維持することも大切です。

栄養バランスの良い食事をとる

皮膚の健康を維持するためには、栄養バランスのとれたフードを食べることが大切です。犬に必要な栄養素としては、以下が挙げられます。

  • 炭水化物:糖質と食物繊維からなる栄養素。とくに糖質は犬の即効性エネルギー源として必要になる。
  • たんぱく質:毛や筋肉、爪や軟骨などを作るアミノ酸を供給し、健康な細胞の維持に必要。
  • 脂質:効率の良いエネルギー源として必要な栄養素。必須脂肪酸は皮膚のバリア機能の維持、健康な皮膚の細胞を保つために重要。
  • ビタミン:正常な発育や代謝を保つために必要。
  • ミネラル:体内で重要な生理作用を担う。

注意点として、過剰に栄養を摂取すると体に負担がかかったり、肥満の原因になったりします。また、ミネラルは相互作用があり、過剰に摂取すると他のミネラルが欠乏するリスクがあります。ドッグフードを与える際は、愛犬の体重管理や健康状態を確認しながら与えるように注意してください。

サプリメントを使用する

犬用のサプリメントを適切に使用すると、皮膚・被毛の健康維持に役立ちます。おもなサプリメントの種類は、以下のとおりです。

  • 必須脂肪酸系
  • ビタミン系
  • ミネラル系
  • 腸活系

サプリメントを使用する場合は、食事に混ぜると犬が自然に食べてくれることが多いため、おすすめです。

 

犬が皮膚病になってしまったら?正しい治し方は?

犬が皮膚病になってしまったら?正しい治し方は?

犬が皮膚病になった場合は、どのような症状が出ているかを確認しましょう。脱毛やかゆみ、発疹や赤み、フケや脂っぽい様子がある場合は細菌や真菌、寄生虫などに感染している場合があります。

放置すると重症化し、重篤な健康被害が生じるため、速やかに動物病院を受診してください。病状によっては、薬用シャンプーや抗生物質、内服薬やクリームや軟膏等の外用剤などを使用する必要があります。

犬の皮膚病を対策するためには、日頃の生活環境を整えることが大切です。栄養バランスのとれたフードやサプリメントを与えたり、適切なスキンケアをしてあげてください。大切な愛犬がいつまでも健康にいられるよう、サポートを継続していきましょう。

犬の皮膚病はポピュラーな病気であり、飼い主さんにとって気がつきやすい病気でもあります。また、ふだんからしっかりとケアをしていれば、予防することもできる病気です。飼い犬の様子をよく観察し、思い当たる原因があるときには取り除いていきましょう。もし皮膚に異常が見られたら、すぐに獣医師の診察を受けてくださいね。
監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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