【獣医師監修】カビによる犬の皮膚病「皮膚糸状菌症」とは?症状や治療法など

2025.07.03
【獣医師監修】カビによる犬の皮膚病「皮膚糸状菌症」とは?症状や治療法など

犬の皮膚病の中には、カビ(真菌)が原因となるものがあり、その代表的なものが「皮膚糸状菌症」です。犬の皮膚に寄生する糸状菌が増殖し、脱毛や皮膚炎を引き起こします。


本記事では、犬の皮膚糸状菌症の症状や検査方法、治療法、予防策について詳しく解説します。愛犬の皮膚の異常が気になる方は、早めに獣医師へ相談することをおすすめします。

目次

 

カビによる犬の皮膚病「皮膚糸状菌症」とは

 

犬の皮膚病の中には、カビ(真菌)が原因となるものがあります。その代表的なものが「皮膚糸状菌症」です。皮膚糸状菌症は、犬の皮膚に寄生する糸状菌(皮膚糸状菌)が増殖し、皮膚の炎症や脱毛を引き起こします。


免疫力が低下している犬や子犬に多く見られ、感染力が強いことが特徴です。


また、犬の皮膚病には、皮膚糸状菌症と同じくカビ(真菌)が関与するものとして「マラセチア皮膚炎」があります。マラセチアは、犬の皮膚に常在している酵母様真菌の一種で、通常は問題を引き起こしません。しかし、皮膚のバリア機能が低下したり、皮脂の分泌が過剰になったりすると、異常に増殖し、皮膚炎を引き起こすことがあります。マラセチア皮膚炎では、ベタつきや独特な臭いが発生することが特徴です。

 

犬の皮膚糸状菌症の症状

 

皮膚糸状菌症に感染した犬は、皮膚のさまざまな異常を示します。皮膚糸状菌症の初期症状としては、顔まわりや足先など、被毛が薄い部分に円形の脱毛や赤みが現れるケースが多く見られるのが特徴です。いずれの部位も環境中の糸状菌と直接接触しやすいため、感染リスクが高くなります。


症状が進行すると、かゆみを伴ったり、皮膚のかさぶたやフケが増えたりすることもあります。稀に感染が深部に進行すると赤みを伴う同心円状の脱毛部位に滲出液見られたり、しこりができることもあります。


主な症状は下記のとおりです。


  • 円形・不整形の脱毛:初期は少量の抜け毛ですが、症状の進行に伴い同心円状の大きな脱毛が見られます。

  • 皮膚のかさつきやフケの増加:真菌が増殖することで、脱毛部位にフケが増えます。

  • かゆみ:他の皮膚病と比較するとかゆみがそれほど強くないことも多いです。


  • 毛包炎や滲出液、しこり:稀に感染が深部に進行すると、病変部に滲出液が見られたり、肉芽腫と呼ばれるしこりができることがあります。

 

犬の皮膚糸状菌症の検査方法

 

犬の皮膚糸状菌症の検査方法

 

犬の皮膚糸状菌症は、目視だけでは確定診断が難しく、正確に診断するためには検査が必要です。初期症状だけでは他の皮膚病と区別がつきにくいため、複数の検査を組み合わせて診断します。


皮膚糸状菌症の主な検査方法として抜毛(あるいは皮膚掻爬物)検査、ウッド灯検査、培養検査があります。それぞれの検査方法について詳しく解説します。

抜毛(あるいは皮膚搔爬物)検査

抜毛検査は、皮膚糸状菌症が疑われる部位の毛やフケを採取し、顕微鏡で真菌の有無を確認する方法です。


検査は以下のように行います。


  1. 皮膚病変の周辺から毛をピンセットで抜く(抜毛)、またはフケや皮膚片を採取する(皮膚掻爬:ひふそうは)。

  2. 採取したサンプルを顕微鏡で観察し、糸状菌の存在を確認する。


糸状菌が確認された場合は、皮膚糸状菌症と診断されますが、菌が見つからなくても感染を否定することはできません。

ウッド灯検査

ウッド灯検査は、特殊な紫外線(ウッド灯)を皮膚に照射し、皮膚糸状菌(特にMicrosporumcanis)が蛍光反応を示すかどうかを確認する方法です。


光る場合は皮膚糸状菌症の可能性が高いものの、光らない場合でも感染を完全には否定できません。

培養検査

培養検査は、皮膚のサンプルを菌が増殖しやすい特殊な培地に置き、糸状菌の増殖有無や培地の変色を確認し、増殖が認められた場合は顕微鏡下で菌の形態確認をする方法です。


検査の手順は以下のとおりです。


  1. 病変部の毛やかさぶたを採取し、培地に置く。

  2. 培地を適切な温度・湿度で保管し、菌が増殖するかどうかを観察する。

  3. 通常、2〜3週間ほど培養を続け、菌の生育や培地の変色を確認する。

  4. 顕微鏡下による形態観察によって菌種を同定


培養検査は皮膚糸状菌症を診断可能な方法ですが、結果が出るまでに時間がかかります。そのため、早期治療が必要な場合は、先に仮診断として他の検査結果をもとに治療を開始することもあります。また、培養検査では、感染している皮膚糸状菌だけではなく、発症せず被毛に付着している他の糸状菌も培養されるため、培養検査だけでは診断が出来ないことがあります。一般的には、被毛検査やウッド灯検査が陽性であった場合に、その陽性の根拠となった菌体要素が本当に糸状菌由来なのかの確認と菌の種類確認を行うために実施する検査となります。

 

犬の皮膚糸状菌症の治療法

 

犬の皮膚糸状菌症の治療法

 

犬の皮膚糸状菌症の治療は、真菌を完全に除去し、再発や感染拡大を防ぐことが目的です。治療には局所療法、全身療法、の2つがあり、症状の程度や感染の広がりに応じて適切な方法を選択します。また、皮膚糸状菌は毛やフケに付着して環境中に残存する可能性があり、そこから再発する場合もあるため、再発防止のための環境対策も重要となります。犬の皮膚糸状菌症の治療法と再発防止対策について詳しく見ていきましょう。

局所療法

皮膚表面にいる真菌を直接取り除くために、塗り薬や薬用シャンプーを使用します。軽度の感染であれば、局所療法だけで十分に治療できることもあります。


軽度かつ局所的な感染であれば、外用薬を患部に直接塗布することで、治療可能な場合があります。


薬用シャンプーの目的は、全身の真菌を洗い流し、皮膚を清潔に保つことです。泡をしっかりと皮膚に密着させ、数分間置いてから洗い流すことで、より効果的に真菌を除去できる可能性があります。

全身療法

皮膚糸状菌症の感染範囲が広がっている場合や、皮膚の深部まで感染、炎症が及んでいるケースでは、外用薬のみの治療では十分な効果が得られないことがあります。その場合は、内服薬による全身療法が必要です。


抗真菌薬を内服することで、血液を介して全身に有効成分が届き、皮膚の奥深くや見えない部分に潜んでいる真菌の増殖を抑制し、症状を改善へと導きます。


全身療法では、一定期間継続して薬を投与することが重要で、根治には数週間~数か月の継続的な内服期間が必要とされています。症状が落ち着いても、完全に菌が排除されたかどうかは見た目だけでは判断できないため、培養検査を行い、菌が消失したことを確認する必要があります。


内服薬には強い抗真菌作用がある一方で、副作用のリスクも伴います。長期間の服用では、肝機能に負担がかかることがあります。また、消化器系にも影響を与えることがあり、投与初期には食欲不振や嘔吐、下痢などの症状が出ることもあるため、定期的な血液検査を行い、肝機能や全身状態を確認しながら治療を進めることが大切です。万が一、副作用が見られた場合は、獣医師と相談のうえ、薬の種類や投与量を調整してもらいましょう。

 

環境対策

皮膚糸状菌症は、感染した犬の毛やフケを介して他の動物や飼い主にも感染する可能性があるため、治療と同時に生活環境の衛生管理を徹底することが重要です。特に、犬が過ごすスペースに落ちた被毛やフケには真菌が付着している可能性が高いため、掃除機を頻繁にかけ、床やカーペット、ソファなどを清潔に保つよう心がけましょう。


犬用のベッドや毛布、クッションは定期的に洗濯し、十分に乾燥させることで菌の繁殖を防ぎます。また、犬が普段使用するおもちゃや首輪、リードなどの生活用品も洗浄・消毒し、可能であれば新しいものに交換することも感染予防につながります。


多頭飼育の場合は、感染が広がらないように隔離することが必要です。特に子犬や高齢犬、免疫力の低い動物は感染しやすいため、注意が必要です。


同居している犬や猫もすでに感染している可能性があるため、症状がなくても獣医師に相談し、必要に応じて検査や予防的なケアを受けましょう。


さらに、空気中に舞う菌の胞子を減らすために、空気清浄機の使用や換気を心がけることも大切です。エアコンのフィルターには菌が付着しやすいため、定期的な清掃を行いましょう。また、真菌は湿気の多い環境で繁殖しやすいため、室内の湿度を管理し、乾燥を保つことも予防策の1つです。

 

犬の皮膚糸状菌症の治療費

 

犬の皮膚糸状菌症の治療費は、治療方法や通院回数によって異なりますが、一般的に症状が軽度な場合、10,000円〜20,000円程度が目安です。中程度~重度の場合、通院複数回と内服薬、外用薬を合わせた総額で、30,000~50,000円程度が目安となります。場合によりそれ以上かかることもありますが、保険対象となることが多いため、早期からの保険加入も検討しておきましょう。


通院の頻度や治療の進行状況によっても費用は変動するため、獣医師に確認しましょう。


皮膚糸状菌症の治療は数週間から数ヶ月かかることが多く、症状が落ち着いた後も培養検査で菌が完全に消失していることを確認する必要があります。治療期間が長引くほど費用もかかるため、早期発見・早期治療を心がけることが大切です。

 

犬の皮膚糸状菌症を予防する方法

 

犬の皮膚糸状菌症を予防する方法

 

皮膚糸状菌症は、真菌(カビ)の感染によって引き起こされるため、犬の皮膚を清潔に保ち、生活環境を整えることで予防できます。梅雨時期や夏場など、湿度が高い時期は菌が繁殖しやすくなるため、注意が必要です。


定期的なシャンプーを行い、皮膚の汚れや余分な皮脂を取り除くことで、菌の増殖を防ぐことができます。シャンプー後はしっかりと乾かし、湿気が残らないようにすることが重要です。獣医師に相談しながら、皮膚の状態に合った薬用シャンプーを選びましょう。


また、犬の寝具やおもちゃ、首輪やハーネスなどの生活用品も定期的に洗浄し、清潔な状態を維持することが大切です。特に、カーペットやソファなどの布製品には菌が付着しやすいため、こまめに掃除機をかけ、消毒を行いましょう。


犬が他の動物と接触する機会が多い場合は、感染した動物との接触を避けることも予防の一環です。ドッグランやペットホテルなど、不特定多数の犬が集まる場所では、感染リスクが高まるため注意が必要です。


皮膚糸状菌症の予防には、日常的なケアと生活環境の管理が欠かせません。定期的に獣医師の診察を受け、皮膚の異常を早期に発見することも、感染を防ぐ重要なポイントです。

 

犬の皮膚糸状菌症は他の動物にうつる?

 

犬の皮膚糸状菌症は感染力が強く、犬だけでなく他の動物やヒトにも感染する可能性があります。特に、同居している犬や猫にうつることが多く、感染した犬と同じ寝具やおもちゃを共有している場合は感染リスクが高まります。


ヒトへの感染の場合、特に免疫力が低下している人や、小さな子ども、高齢者は感染しやすいため、犬が皮膚糸状菌症にかかっている場合は、接触後の手洗いや犬とのスキンシップを控えるなどの対策が必要です。


環境中に落ちた菌は長期間生存し、再感染の原因となるため、掃除機やモップを使って床やカーペットをこまめに掃除し、犬の生活スペースを清潔に保つことが大切です。犬の毛やフケが付着しやすいクッションやカーペットは、可能であれば取り外して洗濯し、十分に乾燥させるようにしましょう。

 

まとめ 犬の皮膚糸状菌症は専門家へ相談

 

犬の皮膚糸状菌症は、カビ(真菌)が原因となる感染症であり、放置すると症状が悪化し、他の動物や人へ感染するリスクもあります。そのため、異変に気づいたら早めに動物病院を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。


犬の寝具やおもちゃをこまめに洗浄し、清潔な状態を維持することで、再発や感染拡大のリスクを低減できます。また、ドッグランやペットホテルなど、他の犬と接触する機会が多い場合は、感染した犬との接触を避けるよう心がけましょう。


犬の皮膚トラブルは、見た目では判断が難しく、他の皮膚病と症状が似ていることも少なくありません。自己判断で治療を遅らせると、症状が進行し、治療が長引く可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。愛犬の健康を守るためにも、皮膚の異常に気づいた際は、迷わず獣医師に相談しましょう。

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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