【獣医師監修】猫が足を引きずるのはなぜ?対処法や予防策についても解説

2025.07.03
【獣医師監修】猫が足を引きずるのはなぜ?対処法や予防策についても解説

歩き方や歩く姿勢、速度などは、健康や老化の重要な指標の一つであると言われています。これは人に限りません。猫は、健康であれば4本の足に均等に体重をかけ、足音を立てずに軽やかに歩きます。ところが、ケガや病気を始め、さまざまなことが原因となり、足を引きずるようにして歩くことがあります。


本記事では、猫が足を引きずって歩く原因や対処法、予防策などについて解説します。

目次


猫が足を引きずる原因

 

猫が足を引きずる原因

 

猫の歩き方はとても特徴的で、足音を立てず軽やかに歩きます。通常は、左右の前足と後ろ足を同じ場所に着地させます。そのため、猫の足跡は一直線に並んでいます。


そんな猫も、跛行(はこう)と言って、特定の足をかばって体重をかけにくくなり、足を引きずるように、あるいはピョコピョコと歩くことがあります。猫の跛行の原因は実にさまざまで、分類すると主に下記の5つに分けられます。


1.外傷・ケガ

2.骨・関節の異常

3.筋肉の異常

4.神経系の異常

5.その他の原因


それぞれについて解説していきます。

外傷・ケガ    

完全室内飼育が普及している現在では、以前と比べてケガが原因の跛行は少なくなりました。自由に外に出られる猫と比べると、室内はケガをするリスクが低いためです。


完全室内飼育の猫は、肉球にトゲやガラスの破片が刺さる、ケンカや事故で骨折や脱臼をする等のリスクが比較的低いです。ただし、伸びた爪が刺さって肉球が傷つく、キャットタワーや棚、窓などから飛び降りたり、誤って落ちる、家具やドアに足が挟まったりなどのケースはあります。


特に、好奇心旺盛な子猫は、高いところまで登ったものの上手に降りられずに落下し、骨折や脊髄損傷などを引き起こすという場合もあります。そのため、室内は安全な環境に保ち、危険な場所への侵入は防止するようにしましょう。外傷やケガの可能性に気付いた場合は、速やかに動物病院で診察を受けさせましょう。


以下は室内であっても起こり得るケガです。 

 

(1)骨折 

人と同じように、外からかかった強い力により骨が折れることがあります。折れる部位や程度は状況によって様々です。 

大抵の場合は強い痛みが生じ、跛行や挙上が見られます。骨折した部位が腫れたり、場合によっては折れた骨が皮膚の下の組織を傷つけることで皮膚に赤や紫の内出血のあざがみられる事もあります。 

 

(2)前十字靭帯断裂 

大型犬での発症が多いことで知られていますが、猫にも見られる病気です。後肢の膝関節の安定性を担っている前十字靭帯が断裂する病気です。負重性跛行と言い、地面に足をつけた状態での跛行が多く見られます。症状によっては、足を全く地面につけられなくなるケースもあります。

骨・関節の異常

成猫の夜鳴きは主に以下の原因が考えられます。


  • 生理的・習慣によるもの

  • 環境・生活リズムの乱れ

  • 分離不安

  • 空腹・要求鳴き


骨・関節の異常に含まれるのは、慢性的に骨や関節に異常をきたす病気を原因とするものです。跛行の症状が現れる猫によく見られる骨や関節の病気をご紹介します。


(1) 骨軟骨異形成症

骨の成長と関節軟骨の構成に影響を与える病気で、垂れ耳のスコティッシュフォールド(発症リスク:非常に高い)、マンチカン(発症リスク:中~高)、ミヌエット(発症リスク:中程度)が好発品種とされています。足先、指先、足首などの四肢の末端部分やしっぽの骨格が、進行性で変形を起こし、すぐに疲れる、硬直したような歩き方をする、跛行が徐々に悪化していくなどの症状が現れます。


(2) 変形性関節症

軟骨代謝の異常から軟骨が変性する病気で、ごく軽症から重症まで、さまざまなレベルの破行が見られます。この病気は非常によく見られ、成猫の60%以上、11歳以上の猫における調査では90%以上でX線所見が認められたという報告もあります

筋肉の異常

跛行を伴う筋肉の異常は外傷性のケースが最も多く、病気による筋肉の異常は決して発生が多いわけではありませんが、多発性筋炎や筋ジストロフィー、低カリウム血症性ミオパチー、重症筋無力症などがあります。どれも報告は非常にまれで、筋ジストロフィーや低カリウム血症性ミオパチーなどは遺伝性の可能性も指摘されており、バーミーズでの報告が多いとされています。

 

神経系の異常

足を引きずる病気には、脳や脊髄などの神経系の病気もあります。猫に比較的よく見られる神経系の病気で、症状として跛行が見られるものをご紹介します。


(1) 脳炎・脳腫瘍

脳に炎症や腫瘍が生じて起こる脳の病気で、進行性の場合は、徐々に悪化していくことがあります。猫の場合、脳炎は比較的若齢時に突然発症し早く進行することが多く、脳腫瘍は比較的高齢になってから発症し慢性的な経過することが多いです。脳のどの部位に発症したかで、跛行以外にもさまざまな症状が現れることがあります。


(2) 特発性前庭疾患

前庭とは内耳の中にあり、半規管と共に平衡感覚を司る器官です。前庭と半規管の情報が小脳とうまく連携できず、体のバランスが取れない、頭や足の位置を正常に保てないといった症状が現れます。猫の場合、耳の病気に起因して起こることのある病気です。

その他の原因

病気以外も含め、ここまでの分類に当てはまらない原因の跛行をご紹介します。


(1) 熱中症

気温と湿度が高い日本の夏は、全身で汗をかいて体温調節できない猫にとって、熱中症になりやすい環境です。ふらついてきちんと歩けなくなり、跛行のような歩き方を見せる場合があります。


(2) 老化現象

猫も歳をとることで、五感や筋力などが衰え、足のふらつきや跛行、立ち上がれなくなるといった症状を引き起こすことがあります。


(3) 詐病

詐病とは、病気ではないのに病気のふりをすることです。飼い主さんに構ってほしいという気持ちが募り、以前ケガなどで歩けなかったときの優しさを思い出して跛行すると考えられています。飼い主さんが見ていないと普通に歩ける、時々かばう足が入れ替わるなどにより判断できることが多いです。ただし、麻痺の症状が出ていて痛みを感じていなかったり、引きずる足が時々変わるような病気(重症筋無力症など)もあるため、獣医師に相談したうえで最終的な判断を要する場合もあります。

 

猫が足を引きずる際の対処法


愛猫が足を引きずっているのを見かけたら、まずは飼い主さんが落ち着いて冷静に愛猫を観察することが大切です。無理をさせない範囲で足先、脚、爪などを軽く触って痛みがないかを確認しましょう。


詐病かどうかの判断は、他に進行性の症状がないことを確認の上で愛猫とスキンシップを図る時間を増やす等の対処でしばらく様子を見てください。詐病以外の場合は、できるだけ早く動物病院で診察を受けさせましょう。その際、愛猫が歩く姿を動画撮影して持参すると、正確な診断の役に立つことがあります。


動物病院での診断・治療方法


動物は自分の状態を言葉で相手に伝えられません。そのため、動物病院での診断では、飼い主さんからの情報がとても重要になります。ただし、猫の病気に関する専門知識を持っていない飼い主さんにとって、説明を求められてもうまく説明できないこともあるでしょう。その場合に、前述の動画が役に立つことがあります。


また、主な診断方法や治療方法を知っておくことも、普段の観察ポイントのヒントになるでしょう。

主な診断方法

基本的なステップは、「問診」「触診」「検査」です。特に足を引きずるといった症状が出ている場合の検査は、「観察(猫に触れずに行う検査)」と「精密検査」に分けられることが多いです。

(1) 問診
まずは飼い主さんから、症状の内容や最初に気付いた時期とその後の経過、生活環境、既往歴などを聞き取ります。

(2) 視診および触診
獣医師が、猫の外観の視診や心音の聴診、触診などを行います。

(3) 検査
◯観察
猫の場合、診察室の中を自由に歩かせて、歩き方を見ることが多いです。ただし警戒心が強く神経質な猫は、慣れない場所で緊張し、普通に歩いたり、歩こうとしなかったりすることも少なくありません。その場合も、撮影動画を獣医師に見せると良いでしょう。観察により歩き方等に異常が認められれば、改めて触診などを実施することがあります。

◯精密検査
ここまでである程度絞り込んだ病気を確定させるため、精密な検査を行います。跛行の場合はレントゲン検査が多いですが、場合によっては血液検査、神経学的検査、CTやMRI検査、関節液検査などを行う場合もあります。

主な治療方法

診断結果によりますが、消炎鎮痛剤などを使用した薬物療法がメインとなることが多いでしょう。症状によっては、外科的治療が必要となる場合もあります。


ただし持病を持っている猫や、高齢な猫の場合は、全身麻酔のリスクを考慮して検査そのものや手術を回避するケースもあります。特に脳炎や脳腫瘍の疑いがある場合、CT検査や髄液検査を回避することで、確定診断できない場合もあります。


しかし神経科の専門医がいる病院であれば、症状にあわせて適切な治療を提案してもらえることがあります。高リスクを伴う検査や手術が心配な場合も、諦めずに獣医師とよく相談しながら治療やリハビリに取り組むと良いでしょう。


また、かかりつけの動物病院にCTや専門医がいない場合も、検査専門病院や専門医がいる病院を紹介してもらえます。心配なことは、積極的にかかりつけ医に相談しましょう。

 

日頃からできる猫の足トラブル予防策


日頃からできる猫の足トラブル予防策

 

愛猫が長生きをしてくれるのはとても嬉しいことで、健康で過ごせる時間が多いほど、猫にも飼い主さんにも、より幸せな毎日になります。そのため、日頃から愛猫の足のトラブルに対する予防を意識しておくことも大切でしょう。この章では、ご自宅でできる愛猫の足のトラブルに対する予防策をご紹介します。

爪切りや肉球のケア

フローリングの床は滑りやすいため、猫の足や関節に負荷をかけることがあります。敷物を敷く等の方法で、滑りやすさを低減させると良いでしょう。


また猫の爪はくさび形に伸びるため、定期的に爪切りを行わないと肉球に刺さってケガをさせてしまいます。子猫の頃から爪切りに慣らすようにしましょう。どうしても難しい場合は、動物病院やペットサロンでも対応してくれます。また冬の乾燥対策として、肉球に保湿クリームを塗るなどのケアも有効なことがあります。

適切な運動量の確保

優れた身体能力を備えている猫は、発達した後肢の筋肉を利用して、身長の何倍もの高さをジャンプすることもできます。しかし、運動不足で筋肉を使わずにいれば、筋肉の衰えだけでなく、肥満などにより関節への負担が増加し、比較的若いうちから関節のダメージが進行し、関節炎のリスクが高くなることもあります。


キャットタワーや棚などを利用させたり、飼い主さんと一緒におもちゃを使った狩ごっこで遊んだりすることで、適度な運動量を確保し、愛猫の健康が維持出来るようにしましょう。

健康的な食生活

愛猫の健康管理には、適度な運動とあわせて適切な栄養管理も欠かせません。この2つが適切に行われると、猫は肥満になりにくくなり、適切な筋肉量の維持が可能になります。


愛猫を肥満にしてしまうと、あらゆる病気の発症や進行促進のリスクを高めます。また過剰な体重を支えるため、足の筋肉や骨、関節にも余計な負荷がかかります。見た目のかわいさや甘えられることへの嬉しさに流されず、栄養バランスの取れた良質な食事を必要な量だけ食べさせることを徹底しましょう。

定期的な健康診断

日頃のケアや予防を行っても、それだけで完全に病気を排除できるわけではありません。普段の様子を観察し、異変を感じたら動物病院を受診しましょう。また特に異常がなくても、定期的に動物病院で血液検査、レントゲン検査、尿検査などを含んだ健康診断を受けさせることも大切です。


早期に発見して適切な治療を始めれば、軽症のうちに完治が期待できる病気もたくさんあります。また完治が望めない場合でも、早期に適切な治療を始めれば、進行を遅らせたり、猫の生活の質を維持できる可能性もあります。

 

まとめ    猫が足を引きずるのは病気のサインかも

 

猫の歩き方には、健康状態がよく表れます。心身共に健全であれば、普段の歩き方が変わることはありません。ただし、猫は本能的に痛みを隠す傾向があるため、飼い主さんが気付くレベルの歩行異常は、病態がかなり進んでいる可能性もあります。常に特定の足をかばって歩くことが増えたなどの明らかな異常の場合はすぐに、また、歩き方に違和感を覚える程度の場合でも、かかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。


特に痛がっていないからとしばらく様子を見ていると、隠れていた病気がどんどん進行してしまい、猫に辛い思いをさせることもあります。具体的にどこがどうおかしいのかを説明できない場合は、歩いている様子を動画撮影するのも良いでしょう。


また、詐病であることに気付いた場合は、「なんだ」と放って置かず、愛猫とコミュニケーションを図る時間を増やすなど、心理面のケアも心がけましょう。それでも続くようであれば、病気の可能性も考慮して動物病院を受診しましょう。

監修者プロフィール

岩谷 直(イワタニ ナオ)

経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許

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