犬が足を引きずる原因は?疑われる病気・ケガや治療方法について

お散歩やお部屋で遊んでいる時などに、愛犬が突然足を引きずったり突っ張らせたりおかしな歩き方をし始めたら、対応に迷う飼い主さんも多いでしょう。「病院に連れて行こう」と思う一方、もしかしたら「一時的かも」と思うかもしれません。そこで本記事では、犬が足を引きずる原因や疑われる病気・ケガ、それに伴う他の症状などについてお伝えします。動物病院にすぐに連れて行くべきかの判断基準、普段からできる愛犬の足の健康を守るための対策などもご紹介しますので、参考にしてみてください。
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犬が足を引きずる原因

犬が足に問題を抱えている場合、いくつかの特徴的な歩き方がみられる事があります。
歩様の異常には、足を少し浮かせて足先を少しだけ地面につけて歩く跛行(はこう)や、足先が完全に地面から浮いた状態で歩く挙上(きょじょう)などがあります。また、足を持ち上げることができず、文字通りに引きずるような歩き方がみられる事もあります。
跛行の場合は足に体重をかける、あるいは足を持ち上げる時に痛みを感じることで見られやすく、、挙上の場合は、より強い痛みを感じている場合や、足を地面につけるために必要な骨や筋肉、靱帯に大きな損傷が生じている可能性が考えられます。足を持ち上げられず文字通り引きずるように歩く場合は、神経に関連した麻痺などの可能性があります。これらの歩き方の原因について詳しく見ていきましょう。
外傷
足に痛みや違和感を生じさせる外傷の代表的な例が骨折や脱臼、靭帯損傷、肉球など足先のトラブルです。
骨折、脱臼、靭帯損傷は、道路への飛び出しによる交通事故、ソファなどの高い場所からの飛び降りや落下、いきなり激しい運動をすることなどが原因になります。骨折や靱帯断裂などの場合は強い痛みを伴うことが多く、骨折の場合は皮膚に内出血による赤~紫色の変色を認めることがあります。
肉球など足先のトラブルは、散歩中に木の枝、割れたガラスの破片などを踏むことでよく起こります。他にも、爪が伸びすぎて割れる、巻き爪になるなどが原因で肉球を傷つけることもあります。
外傷はいつどの犬にも起こる可能性があります。散歩のときはリードを伸ばし過ぎない、高いところに上らせないなど、飼い主さんの注意で防げることもありますので、注意を怠らないようにしましょう。
先天的・遺伝的な病気
犬が生まれつき持っている病気のことを、先天性疾患(先天的な病気)といいます。さまざまな原因がありますが、遺伝子の変異が原因で起こるものは、遺伝性疾患(遺伝的な病気)と呼ばれることもあります。
遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異のほとんどは潜性(劣性)ですが、純血種を作出する過程で、好発犬種といって特定の遺伝性疾患を発症しやすい犬種ができてしまったという歴史があります。また遺伝性疾患は、完治困難な病気がほとんどです。
遺伝性疾患を含む先天性疾患には、股関節形成不全や膝蓋骨脱臼などの、跛行や挙上の原因となりうる病気もあります。これらの病気の中には後天的に発症するものもありますので、好発犬種以外でも注意が必要です。
その他の病気
足を引きずるような症状を伴う病気は、先天性や遺伝性の病気だけではありません。関節や脳に炎症が起きる、骨や脳に腫瘍ができるといった病気も、跛行や挙上の他、よろけたりおかしな歩き方をしたりといった症状を見せます。
脳と歩き方に関連性を感じないかもしれませんが、脳の病気は神経系に異常をきたすため、麻痺を起こしたり脳から正しい指令を出せなくなったりといった症状を引き起こすため、歩き方にも影響が現れるのです。
脳など神経系の病気の場合は、跛行や挙上よりも、歩様異常といって、よろけたり足のあげ方がおかしくなったり足先を内側に丸めるように着地させたり(ナックリング)といった、おかしな歩き方をすることが多いです。
加齢
人と同じように、犬も年を取ると老化現象が出始めます。病気と異なり徐々に進行するため気付きにくいかもしれませんが、日頃からよく観察し、なんとなく後ろ足を引きずっているように感じたら、筋力の低下が疑われるでしょう。
筋力低下により、すぐに疲れたり、立ったり座ったりする動作が緩慢になったり、よろけたりするようになります。しかし、このような症状の全てが老化現象だと思ってしまうと、病気を見逃してしまうことになるので注意が必要です。
例えば関節炎は、年を取るほど発症しやすくなる病気です。歩きたがらない、段差を避けるようになる、走らなくなるといった行動の変化は、筋力の低下だけではなく、病気やケガの痛みが原因である場合もあるので注意しましょう。
仮病
病気やケガをしていないのに、足を引きずるように歩くケースがごく稀にあります。人間でいえば、仮病に似ています。ただし、犬は人を騙そうとしているわけではありません。
過去に飼い主さんから心配してもらって嬉しかった経験を活かして、かまってもらったり優しくしてもらったりするための手段として、注意を引くために行うのです。
引きずっている足を触っても痛がらない、時々引きずる足が変わるなどであれば、仮病だと判断できる場合もあります。ただし、麻痺の症状が出ていて痛みを感じていなかったり、引きずる足が時々変わるような病気もあるため、早計な判断は禁物です。
最終的な判断は、動物病院の検査で何も異常が見られなかった場合に行うようにしましょう。また仮病だと判断した場合は、愛犬の行動の裏にある心理的要因を突き止めて解決することが大切です。
犬が足を引きずる時に疑われる病気・ケガ
犬が足を引きずる時に疑われる病気には、小型犬や大型犬といった体のサイズや年齢によってかかりやすさが異なるものもあれば、共通してかかりやすいものもあります。具体的に、犬が足を引きずる時に疑われる病気やケガについて見ていきましょう。
小型犬の場合

小型犬の場合は、次のような病気・ケガが疑われます。
◯膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう、病院ではパテラと言われることが多いです)
膝蓋骨とは後ろ足の膝のお皿の骨です。通常は膝関節の溝におさまっていますが、内側や外側にずれてしまった状態が膝蓋骨脱臼です。先天的、遺伝的な場合の他、外傷によっても起こります。小型犬の場合はほとんどが内側にずれる内方脱臼が見られます。チワワ、ヨーキー、トイ・プードル、ポメラニアンなど多くの小型犬で好発します。
脱臼が初めて起こった時は挙上がみられることがありますが、比較的多くのケースで自然に脱臼が改善します。症状が軽いうちはスキップをするような歩き方をすることがありますが、短時間かつ軽度な異常の場合が多く、きづかないことも多いです。、進行すると跛行が現れ、重度になると常に挙上した状態になることがあります。
◯関節リウマチ(リウマチ関節炎)
免疫の異常によって複数の関節に炎症が起き、炎症部位に関節液が溜まる病気です。大型犬にはほとんど見られず、若年〜中年齢以降の小中型犬、特にトイ・プードルやマルチーズ、シー・ズー、シェルティーなどで好発します。特定の犬種で多くみられる事から、遺伝性が疑われています。
主な症状は動くのを嫌がる・散歩に行きたがらない、跛行、足を痛がる、発熱が挙げられます。そのほかに食欲低下、元気消失、関節の腫れや変形などもみられる事があり、場合によっては貧血がみられる事もあります。
◯椎間板ヘルニア
背骨(脊椎)の間でクッションの役割をしている椎間板が飛び出して、脳から伸びている神経の束(脊髄)を圧迫することで痛みや足の麻痺などの症状を起こす病気が椎間板ヘルニアです。ミニチュア・ダックスフンド、コーギー、ペキニーズ、ビーグルなどが好発犬種です。
発症部位や圧迫の程度により症状はさまざまです。主に胸と腰周辺の背骨でヘルニアが起こることが多く、圧迫が軽度な場合は痛みに関連した症状(抱っこをすると痛がる、散歩や動くのを嫌がる)が見られます。圧迫が重度になると後ろ足の麻痺やおしっこ・便を意識的にコントロール出来ない、後ろ足に痛みを感じないなどの症状が見られるようになります。首の背骨でヘルニアが起こると重度な場合は後ろ足だけでなく前足にも麻痺が見られることがあります。
大型犬の場合

大型犬の場合は、次のような病気・ケガが疑われます。
◯汎骨炎(はんこつえん)
前足や後ろ足の長い骨の骨髄に強い炎症を起こす病気です。大型犬に好発し、特にジャーマン・シェパード・ドッグによく見られます。
生後5~12ヶ月齢の若齢で多く発症しますが、2歳未満での発生が報告されています。突然ひどい跛行が現れて数週間〜数ヶ月続き、数週ごとに破行する足が変わる場合もあります。
◯骨肉腫
骨肉腫は骨にできる腫瘍です。骨肉腫になる犬の90%以上は、体重20kg以上の大型犬であり、40kg以上での発生は全体の29%を占めています。また骨肉腫は四肢に発生しやすく、その確率はおよそ75%といわれています。診断されることの多い年齢は7歳ですが、18~24カ月齢にもピークが見られます。
四肢に発症した場合、跛行、腫れ、強い痛みが現れ、病気の進行により腫瘍の発生部位で骨折することもあります。また肺に転移しやすく、発症後1年以内に死亡する可能性が高いです。
◯前十字靭帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)
後ろ足の膝関節の中にある「前十字靭帯」が断裂した状態で、加齢による靱帯の強度の低下、膝蓋骨脱臼など何らかの理由で膝に負荷が与えられ続けること、膝への急激な衝撃が原因で発症します。場合によっては、階段を駆け上がるような軽い力が加わっただけでも前十字靭帯が切れてしまうことがあります。また、犬種(ウェルシュ・コーギー、ゴールデン・レトリーバー、ロットワイラーなど)によっては遺伝的な骨格の特徴から、日常的に膝に負担がかかり前十字靭帯が切れやすい素因を持っていることもあります。前十字靭帯断裂の症状としては、断裂時に痛みでキャンと鳴く、足を引きずって歩く、足を地面に着けたがらない、ケンケンのような歩き方をする等が見られます。
共通してよくある病気・ケガ
以下は、全ての犬に共通してよくある病気やケガです。
◯肉球のトラブル
犬は素足で外を歩くため、地面に落ちているさまざまなものを踏みつけてケガを負うことがあります。ケガだけではなく、夏の暑い時間帯はアスファルトで火傷を負ったり、冬は積雪した道で凍傷を負うこともあります。
小さな傷を放置して肉球や指の間に炎症を起こしたり、爪の伸び過ぎが原因で巻き爪になり肉球を傷つけたりするケースもあります。
◯骨折
人と同じように、外からかかった強い力により骨が折れることがあります。折れる部位や程度は状況によってさまざまです。
大抵の場合は強い痛みが生じ、跛行や挙上が見られます。骨折した部位が腫れたり、場合によっては折れた骨が皮膚の下の組織を傷つけることで皮膚に赤や紫色の内出血のあざがみられる事もあります。てくることも多いです。
〇変形性関節症
変形性関節症は、関節の軟骨が摩耗し、炎症や痛みを引き起こす慢性的な関節疾患です。特にシニア犬においてよく見られますが、若い動物でも外傷や遺伝的な要因で発症することがあり、若齢(特に大型犬)であってもその発生が非常に一般的であることが報告されています。また、肥満による関節への負担の増加や過度な運動も発症の要因となることがあります。
◯股関節形成不全
股関節形成不全は、若齢期に股関節の成長に異常が生じ、関節がうまくかみ合わず、徐々に関節の緩みが生じて股関節の脱臼や関節炎が慢性化する病気です。レトリーバー種をはじめとした大型犬に多く、小型犬ではそれほど多くはありません。走り出す時にうさぎ跳びのように両方の後ろ足が同時に出る、腰を左右に大きく振りながら歩く(モンローウォークとも言われます)、後ろ足の歩幅が前足よりも狭い、頭を下げて背中を丸めて歩く、横座り(片足を伸ばすように座る)などの症状が見られます。
犬が足をつることはある?
人には、運動中や寝ている最中などに、突然ふくらはぎに強い痛みを伴ったけいれんが起きることがあります。この症状は「足がつる」などといわれ、筋肉の過労や膝より下の静脈の流れに何らかの問題が生じたサインです。
実は、犬には足がつるという症状は出ないといわれています。ただし、散歩の途中やジャンプ後の着地時などに、愛犬の足が伸び切った状態になり、しばらく動かなくなったという経験のある飼い主さんもいるかもしれません。
一見、足がつったように見えるこの症状は、股関節脱臼や膝蓋骨脱臼の症状の可能性もあります。愛犬が足をつったように見えた場合はこれらの病気を疑い、動物病院で診てもらうことをおすすめします。
犬が足を引きずる時はすぐに動物病院に行くべき?
犬が足を引きずる原因には、人の仮病にあたるようなものもあるため、動物病院に連れて行くかどうかはしばらく様子を見てからにしようと考える飼い主さんもいることでしょう。
しかし、痛みの有無や足を引きずった時の状況やその後の様子、飼い主さんがいない時の歩き方などから明らかに仮病であると確信できる場合を除き、できるだけ早く動物病院で診てもらうことが大切です。
他の症状もなく、どうしてもすぐに連れて行けない場合には、自宅でできるだけ安静に過ごせるような環境を整えて休ませてください。痛がっている足にむやみに触ったり、抱っこをしたりすることは避けましょう。
また、愛犬の様子をきちんと伝えられるように、いつから始まったのか、どのような時に足を引きずるのか、他の症状があるかなどを整理しておきましょう。病院では緊張して犬が歩かないこともあるため、愛犬が歩いている様子をスマホなどで動画撮影しておくと、診断の役に立つことがあります。
犬の足の異常はどのように治療する?

犬が足を引きずるなどの普段とは異なる歩き方をしている場合、原因のほとんどが病気やケガによるものです。その種類は多岐にわたり、それぞれの治療方法も異なります。
まずは動物病院で診察を受け、原因を明らかにしてもらいましょう。問診、歩き方の観察や触診である程度病名を絞り込んだ後、必要に応じてレントゲン検査やCT検査、関節液検査などを行います。ごく一般的なレントゲン検査の場合でも、1枚あたり3,000〜6,000円、程度の検査費が必要です。
骨折の治療は、手術をしないでギプスで固定する場合と手術が必要な場合があり、完全に折れていない場合や骨のズレが殆どない場合はギプスでの固定が選択されることがありますが、ギプスで固定する場合も麻酔が必要になるケースが多くあります。ギプス固定の場合の治療費は、入院費も含めて平均5〜10万円程度,
場合によりそれ以上の治療費がかかることがあります。手術が必要な場合は状態により変わりますが、入院費も含めて15~50万円程度、場合によりそれ以上かかることがあります。
膝蓋骨脱臼の場合、軽症であれば数千円〜数万円の診断・評価と内科的治療を数回受けるだけですむこともあります。ただし、継続的な内科的治療が必要な場合は1カ月当たり数千円~1万円、場合によりそれ以上かかることがあります。手術が必要な場合は20~50万円程度の手術費が必要になるなど、重症度によって治療費はかなり変わります。
愛犬の負荷を減らし、治療費を抑えるためにも、早期発見早期治療が大切です。
犬の足を健全に保つための予防策

ケガだけではなく、足腰の病気も飼い主さんの注意である程度予防できます。些細なことから習慣づけが必要なものまでありますので、下記を参考に改善すべき点が見つかった場合はぜひ取り入れて実践してみてください。
・散歩の際は必ずリードをつけて、必要以上に伸ばさないようにしましょう。
・日常ケアの中に爪の状態チェックを取り入れ、こまめに爪切りを行う
・散歩などから帰宅したら、肉球や指の間の状態をチェックする
・適切な栄養管理と運動管理により、適度な筋肉を付け、かつ肥満にさせない
・足腰に負担がかかるような抱き方をしない
・フローリングなどの滑りやすい床にはカーペットなどを敷いて滑り止めを行う
・犬用ステップやスロープの設置などでソファなどへの登り降りの衝撃を和らげる
適切な栄養管理については、かかりつけの獣医師とも相談しながら、上手にサプリメントを利用することも有効な対策になります。また老化が進んで歩行困難になってきた場合は、車椅子や介護用ハーネス、ナックリング用サポーターなどのグッズを上手に活用することも検討してみましょう。
まとめ 愛犬の足に異常を感じたらすぐ動物病院へ
犬が足を引きずったりおかしな歩き方をする時は、痛みや麻痺などの問題を抱えていることがほとんどです。
安易に自己判断で「仮病だろう」と判断をしたり、「少し様子を見てから」などと思わずに、できるだけ早く動物病院で診てもらうことが大切です。治療費を抑えるだけではなく、犬自身の苦痛や負荷も和らげてあげられますので、予防を行うと共に、早期発見や早期治療を心がけましょう。
- 監修者プロフィール
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岩谷 直(イワタニ ナオ)
経歴:北里大学卒業。大学研修医や企業病院での院長、製薬会社の開発や学術職などを経て株式会社V and P入社
保有資格:獣医師免許